生まれて来てくれてありがとう


 沢田綱吉がその日をかの極悪人が産まれた日であると知ったのは、健気なクローム髑髏が、沢田家の玄関のインタフォンを意を決して押したことに端を発する。
 その日、綱吉は休日で自宅におり、いつもどおり子供たちの面倒を見ていた。
 ランボは相変わらず鬱陶しい子供で、イーピンは恐ろしいお子様で、それでもなんだかんだ言って、自分はこの子らが好きなんだなぁとマイホームパパのようなことを考えていた。
 クローム髑髏が初めて沢田家に足を運んだのは、そんなのどかな初夏のある日のことだった。
 ピィン、ポーォーン……。
 そう思えば、あの喚起を促す音は、いつもとちょっと違っていたような気がする。




 初めて家に来てくれた女の子を自室に通すなんて無礼な真似をする訳にはいかないので、綱吉はクロームを居間に案内した。
 居間には母がいた。愛人と愛を語らうリボーン様もいた。当然その愛人様もいた。そして、どたばたと駆け回るちびたちもいた。
 大所帯過ぎる。おまえらは人んちの居間を何だと思ってんだ。
 しかし無難に「京子ちゃんとハルの友達で」と説明すると、心優しい母はニコニコと微笑んで、居間の椅子にクロームを座らせた。
 眼帯へそ出しのけったいな格好をした女の子が一人息子を訪ねて来たと言うのに、この人は少しもおかしいと思わないのだ。
 それが子供への信頼ゆえなのか、単に天然だからなのか、綱吉は時々悩む。
 しかもどうも後者のような気がするので、どうやってこの人が現代を生きてこられたのかも甚だ疑問だった。
 げに恐ろしきは天然パゥワー。
 けれど追求されなかったのはありがたい。何しろクローム髑髏は綱吉の知り合いの中でも特別見た目がちょっとあれだ。
 眼帯ってだけでもどうかと思うのに、それが真っ黒なゴシック調のものと言うだけでも一般人ではないのに、更に彼女は社交的なタイプでもない。奈々への挨拶はぼそぼそと控えめで、見るからに良いおうちのお嬢さんである笹川京子や三浦ハルとは、毛色が違うだろう。
 それでもいつもと同じ何の影もない笑顔で微笑んでくれた奈々は、たとえ天然だろうが何だろうが素晴らしい母親だった。
 息子の知り合いだ、と言うだけで、無条件で人を受け入れる。そうでなくとも、奈々は人を疑ったり敬遠したりしない。頼りなく思ったりもどかしくなったりもするけれど、そこだけは胸を張って誇れる母の長所だった。天然恐るべし。
 母が入れてくれたアイスココアをクロームの前に置いて、綱吉はその向かいに遠慮がちに腰を下ろした。
 ぶっちゃけあんまり接点がないので、正直に言えば居心地が悪い。
 しかし、多分クロームの方が居辛いと思われるので、そこは男として黙って耐える。
 綱吉が置いた品の良いグラスに注がれた飲み物を、クロームは気になるようでちらりと横目で見たけれど、まずは口をつけずに、おずおずと話を切り出した。
「……あの……ボスは今月の九日、何の日か知ってる?」
 上目遣いの少女の視線に、問われた綱吉はぱちくりとした。唐突に切り出された話に、脳みそが追いついていかない。視線が右上、左上へとふよふよ動く。考えているのだ。
 クロームは何だか、重大事の決定を聞くかのように、畏まって固まっている。
「ここのか? ……あー、ああ、そうか。なるほど……もしかして、骸の誕生日?」
 綱吉は居間に飾られたカレンダーに目をやってから、右の拳で左の手のひらをポン、と叩いた。半分当てずっぽうだが、そもそもクロームがわざわざ沢田家を訪れる用事など六道骸以外にはあり得ない。て言うか、何か、日にちがそれっぽい。
 クロームの頬が、ぱぁっとばら色に染まる。
 因みに耳をダンボにしていた先生に、「なんでそんなこと知ってんだおめーは」と突っ込まれた。クロームを前にしてまさか語呂合わせで適当に言ってみましたとは言えないので、ほっといて欲しい。
「そうなの、あの、骸様のお誕生日なんだけど……私、お祝いしたいの」
 クロームは珍しく嬉しそうに頬を紅潮させて、ちょっとだけ身を乗り出してきた。
 やっと落ち着いたのか、手付かずだったアイスココアにも手を伸ばす。固めに作ってあるホイップクリームをスプーンですくうと、頬を綻ばせた。そこは女の子、甘いものは大好きだ。
「お祝い? へー、良いんじゃない? 骸喜ぶんじゃないかな」
 骸はあまり馴れ合いや日常的なことに関心を示すタイプに見えないが、クロームや城島、柿本に関しては可愛がっているように思う。そんな彼らに誕生日をお祝いしてもらえたら、さしもの彼でも嬉しいんじゃないだろうか。
 綱吉は単純にそう考えたが、クロームはまるでそれが神の啓示ででもあるかのように胸の前で両手を組み、ひどく気が急くような目をした。
「そう思う……? ボス、本当にそう思う?」
 その必死な姿に、綱吉は息を飲んだ。彼女にとっては本当に、骸の誕生日は重大ごとなのだろう。こんな風に思ってもらえる骸は、幸せだ。
「オレはそう思うよ。骸のことだから、保証は出来ないけど。……何、パーティーでもするの?」
「それが……私も犬も千種も、誰かのお誕生日をお祝いしたことがなくって、ボスに相談に乗って欲しくて……パーティーって、どうすれば良いの?」
 クロームの素朴な疑問に、綱吉は微笑んだまま黙りこくった。
 小学生でもあるまいし、誕生日パーティーと言って部屋を飾り付けるのはおかしいだろう。あの廃墟をどう飾り付けて良いのかも綱吉には良く分からない。
 第一、取り敢えずケーキと飲み物とプレゼントさえ用意すれば、勝手に進行してくれるのがお誕生日パーティーだ。
 それにしても……。
(黒曜ヘルシーランドで誕生会って、何か、殺伐としてるな……)
 想像してしまったが、あんまり楽しくなさそうだった。……メンツがメンツだからかも知れないが。
 ロケーションとしては、あんまりバースデイに適しているとは言えまい。
 骸には似合っているが、あんなところでお祝いなんて、何だか精神衛生上よろしくない気がする。
 それに、クロームや城島や柿本が、子供だけで一生懸命ケーキと料理を用意するかと思うと、何だか涙ぐましいと言うか、妙に涙腺が緩んでしまうのは何故だろう。
 綱吉はしばらくむむむむむと唸りながら考えた。
 答えない綱吉に、クロームは不安そうな顔をしている。彼女は大体いつでもこんな顔だったが。
 綱吉はソファに座って雑誌をめくっている母を振り返った。
「……母さん、9日ってうち使ってもらっても良い? と言うか、率直に言えば更に友達の誕生日パーティー用の料理が欲しいんだけど」
 母になんと説明したものか悩んで、うっかり六道骸を友達とか言ってしまった。びっくりだ。自分で言っておいて、綱吉はちょっと照れた。
 息子の急な申し出を、奈々はまるで聞き耳を立ててその言葉を待ち構えてでもいたかのように、にっこりと笑顔で受け止める。
「ええ、良いわよ? 主役の子は、好き嫌いはあるのかしら」
 ほわほわと微笑んだ母の返答を綱吉も当然のように受け止め、質問に首を傾げた。
「確か、辛いものが苦手だって聞いたけど。あとチョコレートが好き」
「じゃあ辛いものは駄目ね……バースデイケーキはチョコレートケーキにしましょう。他には……そうね。ツっくん食べたいものある?」
「オレの食べたいもの訊いてどうすんの……」
「じゃあ、ツっくんはどのメニューだったら、母さんの得意料理だって自慢出来るのよ?」
 そっくりな母と子の会話に、クロームは戸惑ったような顔をした。会話の流れから言って、どうやら自分たちに関わりのあることらしい。
「ボス?」
 控えめに声をかけると、それでも綱吉はその声を拾い上げて、振り向いてくれた。
 こちらを向いた顔は、ニコニコと微笑んでいる。
「クロームさ、もし良ければ9日、パーティーにうち使わない? 勿論他の人の許可が得られたら、だけど……あ、でも、骸は嫌がるかな」
 クロームを安心させるかのように優しく微笑んだ綱吉は、最後の部分でちょっとだけ眉を顰めた。
 沢田綱吉に素直に誕生日を祝われる六道骸を想像出来ないな、と自覚したのだ。
 骸という少年は無駄に気位が高く、馴れ合わないところがある。綱吉としても無理矢理彼を守護者と言う鎖で繋ぐつもりはないし、これは彼と彼の愛すべき配下たちへの純粋な厚意なのだが……一応沢田家はボンゴレ十代目の本拠……とも言えないこともないので、あまり寄り付かないかな、と反省したのだ。
 しかし、クロームは大きな瞳を更に大きく見開いたあと、淡く微笑むように口元を緩めた。
「ううん、嫌がらない。ボスとご家族が良ければ、とっても助かる。ありがとう……犬と千種にも、聞いてみるね」
 いつもおどおどとしているクロームの笑顔は珍しいので、綱吉もホッとした。正直大きなお世話の自覚もあったので、断られるのを覚悟の上で言ったのだ。
 だって、骸すっげー嫌がりそうだし。
 クロームはきっと気を遣って嫌がらないと言ったんだろうが、寧ろ骸が嫌がらない理由が思い当たらない。苦労知らずの子供に誕生日を祝われることも、無意味なパーティーも、どう考えても彼が好むものではない。
 彼は激昂することはほとんどないが……ネチネチ嫌味を言われるくらいはするかもしれない。
「まあ……もしあいつが嫌がったら連絡してくれれば良いや。中止にするから」
 他の二人も不本意かもしれないしね、とクロームに微笑みかけると、彼女はちょっと不可解そうな顔をした。
「……犬と千種は分からないけど、骸様は、嫌がったりなさらないと思う」
「……そ、そう? それなら良いんだけどね」
 まあ何だかんだ言って骸も、そして千種も犬も、クロームのことは可愛がっているようだから、それでクロームが責められることはないだろう。どうせ綱吉を責めるに決まっている。はいはいなんでもオレが悪いんですよね!!
 綱吉は少しだけ不貞腐れたけれど、まあ、それでも良いか、と笑う。基本的に、彼らには仲良くしていて欲しい。
「じゃあ、6月9日は、またここに来てよ?」
 クロームが、ぱぁっと頬を赤くして微笑んだ。
「はい、ボス……!」




 そんな訳で、6月9日、当日である。
 別に場所と料理を提供しようと思っただけで盛大なパーティーと言う訳でもないし、彼らが不快そうならその場に混ざる気もないのだが、朝から綱吉は落ち着かなかった。
 まあどうせ家は父さんのだし、料理もケーキも母さんのだし、骸はオレに祝ってなんか欲しくないだろうから、どうでも良いんだけど!!
 そう思いながらも、綱吉はHRの後、手早く用意してさっさと下校の準備をした。一緒に帰る気満々の獄寺と、部活の時間まで一緒に話そうとでも思っていた山本が目を丸くする。
「十代目、もう帰られるんすか?」
「何か用事でもあんのか?」
 話しかけられてドキッとする。骸の誕生日だから早く帰るなんて、そんなこと、誰が聞いてもおかしい。
「えっ、いや別に、ちょっと疲れたから、早く帰ろうかなー、なんて」
 別に疚しいことでも、後ろめたいことでもないのに、綱吉はしどろもどろと視線を泳がせて答える。その様子にますますもって親友たちは心配そうな顔をした。
「あ、じゃあ、ご一緒します!」
 獄寺が鞄を小脇に抱える。
「オレは部活あっから一緒には帰れねーけど、夕方ゲーム持って行くよ」
 貸す約束してたからな、と山本が笑う。
 どちらも様子のおかしい自分に気を遣っているのだと分かって、綱吉は恥じ入った。
「そうだね、じゃあ、獄寺くんも今日は寄って行ってよ」
 うちで山本が来るの、待ってよう?
「はいっ! てかてめーは来なくていーんだよ!!」
「じゃあ山本、あとでね」
 恒例行事のように山本に噛み付く獄寺の手を笑いながら引っ張って、綱吉は教室を出た。
 二人きりの時の獄寺は、何だかいつもニコニコしている。先ほど綱吉が疲れたと言ったことを気遣っているのか、もっぱら自ら話しかけて、綱吉を盛り上げようとしているかのようだった。
 先ほどまで逸っていた気持ちが落ち着いてくる。
 獄寺の顔を見ていて落ち着くなんて、会ったばかりの自分では考えられなかったことだ。
 大袈裟に身振り手振りを交えて綱吉を楽しませようとしてくれる彼の姿に、綱吉も自然とニコニコしていた。
 そして、校門から出て行こうとした時。
「……こら。この僕を無視して素通りするなんて、随分と良い度胸じゃありませんか」
 中学生にしては些か大人びた声が聞こえて、綱吉の背筋に、言いようのない怖気が走った。
 慌てて振り向くと、隣の獄寺は既に右手を綱吉の前に出して、左手を後ろに回している。
「てめぇ……」
 直前までとは打って変わって、獄寺が憎々しげな、低い声を出した。対峙したその人物を確認した綱吉は、目を見開く。
 果たして、並盛中学の校門の門柱にその背を預けて立っていたのは、六道骸その人であった。
 よくよく周りを見れば、稀なほど眉目秀麗な彼のことを、通り過ぎる女子たちが振り返ってきゃあきゃあと騒いでいることに思い至る。
 なるほど、骸が腕を組んで立っているその姿は、確かに人目を引くものだった。すらりとした細身のスタイルに、特徴的な髪型、そして彫りの深い顔は、滅多にお目にかかれる類の美形ではない。
「骸……」
 名前を呼ぶと、色の違うオッドアイが煌いた。
「不思議そうな顔をしていますね?」
「……まさか、学校まで来ると思ってなくて」
 綱吉はと言えば今日この少年が誕生日を迎えたと言う特別な気持ちがあるのだが、当の彼らがまさか自分に祝って欲しいとは微塵も思えないし、勝手にやって勝手に帰るか、来たにしても文句だけ言って帰るか、あるいは訪ねもしないだろうな、と思っていた。だから、並盛中学に骸が来るなんてビジョンはまったくなかったのだ。
 骸はまだ目を丸くしている綱吉にちょっとだけおかしそうな顔をして、首を傾げて笑った。
「千種たちはもうお邪魔させて頂いてますよ。僕は、君があんまり遅いので様子を見に来たんです。時間くらい伝えておきなさい」
 さらりと命令口調で言われて、綱吉は思わず「あ、ごめん」と頭を下げる。どうやら骸は勝手に誕生日パーティーをセッティングした綱吉に怒りを覚えてはいなかったらしい。それどころか綱吉も同席すると思っていて、どう考えても迎えに来てくれたようだ。そう考えると、自分の態度は他人事過ぎてちょっとひどい。
 敬愛する十代目に訳の分からないことを言う骸に対し、獄寺の額に青筋がたった。
「突然現れて、偉そうに言ってんじゃねぇよ!!」
 今すぐダイナマイトでも取り出しそうな獄寺の様子に綱吉が泡を食う。せっかく骸の誕生日に、母の苦労が水泡に帰しては堪らない。
 綱吉は慌てて獄寺の身構えている両手を咄嗟に掴んだ。
「良いんだ獄寺くん! 今日は骸の誕生日だから、オレが来てくれって言ったんだよ」
 学校まで来るとは予想外だったが、てっきり嫌がるだろうと思っていた骸に迎えに来られて、嫌な気分ではない。
 しかし、綱吉に制された獄寺は、ぎょっとしたように振り返ってから、僅かに傷付いたような顔をした。
 表情豊かな友人のその顔に、綱吉がどきりとする。悪いことをしてしまったような気がした。でも間違った訳ではないと断言出来る。自分は、何をしてしまったんだろう?
 二人の微妙な雰囲気を骸が瞬時に察して、獄寺をからかおうとしていた口を噤む。
 骸が黙り、綱吉が言葉に詰まり、獄寺が唇を噛んだから、気まずいような沈黙がどすんと落ちた。
 綱吉は呼吸が出来ない魚のように、はくはく、と口を開けたり閉じたりする。何と言って良いのか、分からない。
 何故か、手を離したら獄寺が背を向けて走って行ってしまうような気がして、綱吉は、縋るように掴んだ獄寺の両の手を、離すことが出来なかった。
「……この間、オレの家にクロームが来て、骸の誕生日を祝いたい、って、言ったんだ。オレ、ヘルシーランドで誕生祝いをするクロームたちを想像したら、なんか、嫌で、」
 骸がかすかに目を瞠るのが、視界の端で見えたような気がする。綱吉は居た堪れない気持ちになる。
 別に同情のつもりなんかじゃなかった。いや、けれどこれが同情なのかもしれない。だって骸が寂しかったり悲しかったりするのは、嫌だ。
 それを骸が不快に思ったら、今日のことは全部台無しだ。そう思っても、今の獄寺に取り繕った言葉が通じるとは思えなくて、綱吉はありのままの言葉を紡ぐ。
「せっかくだから、もっと楽しんで、もっと、骸が生まれた日を祝福出来るようにしたくて、だから、来てもらいたかった。でも、骸がそれを拒んでも仕方ないかなぁと思ったから、今日は、何もないみたいな顔で過ごそうと思った。もし骸が来なくても、お節介な自分に失望することが、ないように」
 そうだ、完全にお節介だった。綱吉は素直に骸を祝いたかった。でも骸は嫌がるだろうと言い訳して、線を引いた。
 自分のお節介を骸に迷惑がられても、傷付いたりなんかしたくなかったから。
 骸はそれでも何も言わなかった。立ち去りもしなかった。彼はただ、何の感情もないような瞳で、綱吉を見るだけだ。その目に怒りや苛立ちや悲しみが浮かぶのを見たくなくて、綱吉は、骸を振り返ることはしなかった。
「だから誰にも何も言わなかった。獄寺くんに何か隠したり、騙したり、したかった訳じゃないけど……結果的にそうなったことは、ごめんね、悪いと思ってる」
 真っ直ぐに顔を仰ぐ綱吉から、獄寺は痛むような顔で、しばらく顔を背けていた。
 けれど綱吉が謝罪の言葉を口にした途端、弾かれたようにこちらに顔を向けた。
 今にも泣いてしまいそうな、ものすごく悔しそうな、苦味のある顔をしていたけれど、瞳はいつもどおり真っ直ぐだった。
「……十代目が謝られる事じゃ、ないです。オレが勝手に十代目を枠にはめて、勝手に傷付いただけっす」
 獄寺の理想の十代目は、獄寺に何でも相談してくれて、何でも頼ってくれて、決めたことは全部知らせてくれて、獄寺のことも全部分かってくれるような、そんな相手だ。誰にでも平等に優しい彼を慕っている獄寺だが、山本とも、当然骸なんかとは全く比べ物にならないくらい、一番に頼って何でも話してくれなくては、嫌だった。
 ファミリーだから。右腕だから。親友と言う座を与えてくれたから。飽くまでも普通の人間であろうとする綱吉にそんなことを望むのは間違いだと、獄寺も思う。それでも、期待する心はどうしようもなく存在して、止められない。
「だからオレは、そんなオレが恥ずかしくて、だから、十代目は何も悪くないんです」
 綱吉が守りたいもの、大切にしたいものを、同じように守り、大切に出来る、そんな人間に獄寺はなりたかった。
 けれど、十年後の自分はともかく今ここにいる自分はまだ子どもで、余裕なんかなくて、綱吉の中で自分が一番ではないかもしれないのに、他のことなんか構っていられない。
 こんなみっともない己を獄寺だってとても好きにはなれないと、時々自己嫌悪で堪らなくなる。
 至らなさに唇を噛むと、綱吉はきょとんと目を丸くしてから、「そんなこと」と笑った。
「そんなの、誰だってそうだよ。君の期待通りに出来ないオレでごめん。でも獄寺くんだって、オレがこうであって欲しいと思う普通の友達になんて、なかなかなってくれないし」
 綱吉には、獄寺が一体どんな自分を望んでいるのか分からない。自分は自分でしかない。獄寺だって、綱吉はもっと普通にボスとか右腕とか関係なく友達になりたいと思うけれど、彼はそれを認めはしない。
 恨み言を言うように綱吉は唇を尖らせてから、やはり笑った。
「だからお互い様だ。みんなそういうもんだよ」
 自分がなりたい自分にだってなかなかなれないのに、他人の理想なんて体現出来るはずがない。出来る人間はいるかもしれないが、綱吉はそこまで器用ではないのだ。
「こんなオレだけど、みんなのことが好きだから、誕生日はお祝いしたいと思うし、笑ってくれたら良いと思うんだ。そんなのオレのエゴだし、わがままだけど……」
 続く言葉を飲み込んだ綱吉に、獄寺がやっと、笑いかけてくれた。
「それはわがままじゃないっすよ。オレもそれが良いと思います!」
 誰かに笑って欲しいという願いが、間違いな訳はないと、獄寺は思った。単純すぎるその気持ちだけでいつでも前を向いている綱吉だからこそ、獄寺には誇らしいのだ。


 ようやくぎこちなく顔を見合わせた二人を、骸はただ黙って見守っていた。
 綱吉が恐る恐る、その顔を振り返る。
 しかし骸の顔には、恐れたような表情は浮かんでいなかった。彼はただ、呆れるようにちょっと微笑んでいるだけだ。
「……お話はおしまいですか?」
 それじゃあ行きましょうか。
 にっこりと首を傾げるその様はどこまでも洗練されて美しい。その美しさに、綱吉は唇をぎゅっと噛んだ。
「おまえは、何とも思ってないのか」
 いつもよりも低い、ぐぅっと腹の底から出したような綱吉の声に、骸はきょとんと目を丸くする。
「何を?」
 はぐらかすような答え。するすると、骸はこの手をすり抜ける。
「オレが、おまえの誕生日を祝いたかった経緯とか理由とか、そういうの聞いて、何とも思わないの?」
「何を思う必要があるんです? だって、そんなの最初から分かるじゃないですか」
「……っ!」
 やはり骸はにこりと笑った。そこに邪気はない。まったくない。
 綱吉が息を飲む。その笑顔と言葉で、綱吉は骸を理解した。綱吉の超直感も、今は彼を危険な存在だなんて認識しない。当たり前だ。骸は、きっと。
 誰かに優しくしたいとか、同情とか、そんなもの、言葉で縛ることの方が愚かだ。骸を祝いたいと言う曇りのない思いを、そのまま、骸は受け取っている。
 綱吉は何故か泣きたくなった。今まで以上に、骸の誕生日を、どうしたって良い物にしてやりたいと強く思う。
 ああ、彼は素直だ。最初から、迎えに来たって言ってくれてたのに。
「そうだな、もう行こう。早く帰らないと、せっかくの骸の誕生日がどんどん過ぎちゃうよ」
 綱吉は骸の手を引いた。骸は、その手を振り払いはしなかった。触れた手は温かく、血の通ったただの人の手で、まるでどこにでもいる中学生のようだった。つまりは、それが答えで良かったのだ。
 過去も未来も、今は関係がない。今日この日が、彼の誕生日であると言うこと、それだけだ。
 赤い目を擦って、綱吉が笑う。不細工な顔になった気がしたが、それ以上に嬉しくて、そんな瑣末なことは気にしないことにした。
「獄寺くんも行こう!」
 やけに素直な骸にいぶかしむような視線を送っている獄寺を、綱吉は振り返った。その顔を見て、獄寺も安心する。
 獄寺の主は、勘だけはとても鋭い。綱吉が笑っていられるなら、骸の様子は不審ではないのだ。
「はいっ!」




 綱吉が骸と獄寺を率いて帰宅すると、玄関で柿本、城島、クロームが勢揃いで出迎えた。全員、本日の主役である骸の帰りを待ち侘びていたのだろう。
 クロームは顔を輝かせ、柿本は無表情ながらも肩の力を抜いて眼鏡の位置を直した。
 城島は綱吉を睨みつけて「おっそいぴょん!」と牙を剥き、獄寺に「あんだとてめぇ十代目のご好意に甘えて好き勝手言ってんじゃねぇ!」と怒鳴りつけられ、一触即発になった。
 家の中は、ご馳走の良いにおいでいっぱいで、どこかそわそわと浮き足立っている。
 睨み合う獄寺と城島を何とかとりなし、綱吉が急いで制服を着替えリビングに駆けつけると、テーブルの上には奈々の自慢料理が所狭しと並べられ、その中央に、どどんとケーキが置いてあった。
 言われなければ店のものだと思いそうな、立派なケーキだ。注文通りチョコレートケーキで、ろうそくも骸の年齢分きちんと立てられている。
 骸は目を瞠って、褐色のケーキを見た。
「チョコレートケーキ……」
「ボスが、骸様はチョコレートがお好きだからって言ってくれたの」
 クロームがニコニコする。骸が珍しく驚いたような顔で振り返ったものだから、綱吉は今更ながらに照れた。
「いや、オレは好き嫌いを聞かれたから答えただけだよ……これで良かった?」
 骸ははにかんだように笑う。初めて会った時に見た作り物の優等生の笑顔よりも、ずっと年相応で可愛らしい笑顔だった。
「ありがとうございます」
「……作ったのは母さんだから」
「お母さまもありがとうございます」
 上機嫌の骸が、ろうそくに火を点している奈々に頭を下げる。見た目は品行方正で端正な美貌の少年に微笑まれて、奈々は「あらぁ、どういたしまして!」と頬に手を当てて照れていた。
 獄寺はと言えば骸の態度に関して気持ち悪いとは思っているものの、彼が一向に綱吉にも奈々にも礼を失さないので、安心したらしい。やっといつもどおり、誕生会に湧くランボを叱り付けている。
 そこで、綱吉ははたと気付いた。獄寺に追い回されてキャッキャと飛び跳ねているランボと、クロームと何故か通じ合っているらしいイーピンと、いつもおとなしくしているフゥ太……。六道骸とはあまり接点がない、あったとしてもフゥ太に至っては苦しい思い出しかない相手の誕生会なのだが、沢田家の居間を使うと言うことは必然的にこの子たちも参加することになってしまう。
「そうだった。子どもがいても良い? いやだったら追い出すけど」
 正直に言えば、六道骸は子どもが好きそうではない。もてなす相手の都合を考慮しなかった自分に好い加減辟易しながら骸を見ると、骸は特に気にした様子もなく手を顔の前で振った。
「ああ、別に構いませんよ。こちらにも似たようなのがいますし」
「それって柿ピーのことれすか骸さん!」
「おまえのことですよ犬」
 にっこりと骸が微笑むと、反対に城島がしゅんとなった。綱吉は思わず吹き出しそうになって、城島から恨みがましい一睨みを食らって慌てて視線を逸らす。
 その様を見て、骸が陰りのない顔で笑った。こんな他愛もないことが、綱吉にはひどく嬉しくて、楽しかった。
 珍しい交流にぎこちないながらもじゃれ合っていたところで、奈々がろうそくに点火し終わり、リビングの電気のスイッチを消してくれた。カーテンを閉められた室内は、たちまち薄暗くなる。
 慣れていない黒曜組が急に電気が消えたことに驚いてキョロキョロと辺りを見回した。
 その中で、唯一明るさを許されたろうそくの火が、ゆらゆらと揺れている。オレンジ色の光はホッとするような温かさだ。
 奈々がにっこりと笑う。
「骸くん、これからみんなが歌を歌うから、終わったらこのろうそくを息で吹き消してね。他のみんなはさっき教えたように」
 どうやら骸が綱吉を迎えに行っている間に、奈々は既に誕生日のお作法を黒曜の子どもたちに教育していたらしい。
 柿本とクロームは緊張したような面持ちでこっくりと頷き、城島だけ「うた?」と首を傾げ柿本に「さっき習っただろう」と溜息を吐かせていた。
「犬くんは大丈夫かしら? 思い出した? じゃあ、さんはい!」
 奈々は人差し指を指揮棒のようにしてリズムを取った。「さんはい」の声の後に、子どもたちはそれぞれ歌を歌いだす。
「ハッピーバースデートゥーユー! ハッピーバースデートゥーユー! ハッピーバースデーディア」
「骸さまー」
「骸さーん」
「骸ー」
「骸くーん」
 バラバラな呼び方で、不格好な歌になった。それでも、子どもたちはとても楽しそうだった。
「ハッピーバースデートゥーユー!」
 歌が終わると同時に、わぁっと歓声が上がり、拍手が巻き起こる。奈々の教育は上々で、付け焼刃ではあるが黒曜の面々もきちんと歌を歌い、手が痛くなりそうなほど一生懸命拍手をしていた。
「骸、ろうそくを消して!」
 弾むような綱吉の声に、骸が戸惑いながら、ふぅっと息を吹きかける。初めてだったけれど、1回で全てのろうそくの火が消えた。
「骸、誕生日おめでとう!」
「おめでとうございます骸様!」
 ひときわ拍手が大きくなり、それぞれが口々に祝いの言葉を述べる。獄寺は口をへの字に曲げて何も言わなかったけれど、それでも大きな音で拍手だけはしっかりとしてくれた。照れ屋で不器用な彼らしく、その性格は骸も理解するところだったので、一人でむっつりとしていても場の空気が悪くなることはない。
 骸はまだ反応に困ったように綱吉の顔を見て、ニコニコと笑っているその顔に、思わず自分も吹き出すように破顔してしまった。
「っ、何で君、そんなに嬉しそうなんですか」
 指摘されて、途端に綱吉が顔を赤くする。
「なっ、別に誕生日なんだから良いだろ……て言うかオレだけじゃなくてみんな嬉しそうじゃん!」
 六道骸は、照れたような顔の沢田綱吉を見る。自分ごとき犯罪者の誕生日に、満面の笑みを浮かべるそれぞれの姿を見る。
 ボンゴレファミリーなどに関わる前は、下らないと見ない振りをしていた、暖かな団欒の、幸せの縮図。大して興味などなかったつもりの、こんな些細なことが、骸にとっては何故か夢のような光景だった。
「……ありがとうございます」
 妙に感じ入ったような顔で骸がお礼など言うものだから、獄寺は目を丸くして驚いている。
 両親のことなどにしがらみがあろうとも、獄寺は幸せな子ども時代を過ごしたことのある人間だ。物心付いた時から社会から孤立して生きてきた骸たちの気持ちは、理解出来ない。
 当然、今まで平穏な生活を送ってきた綱吉には獄寺以上に骸は分からない。
 けれど彼が今までどんな生き方をしてきたのかは、彼と戦った時に片鱗を見たつもりだ。
 だから、綱吉は笑って、骸の肩に手を置いた。
「骸がお礼を言うことじゃないんだ。誕生日って言うのは、そういう日なんだからさ」
 友達もあまりいなくて、父親なんかほとんど家に帰ってこない綱吉の誕生日は、悪くすれば母親と二人きりと言うこともあった。けれど奈々が、あのいつもの、肩の力が抜けてしまう影のない笑顔でニコニコと、本当にニコニコと嬉しそうに笑って、
「ツっくんが生まれて来てくれて嬉しいわ」
 と言ってくれるから。
 綱吉は孤独を感じたことはなかった。寂しいとも思わなかった。
 誰よりもお腹を痛めて自分を産んでくれた母が、自分の生を何の疑いも抱く必要がないほど肯定してくれたから。
 どんな極悪人だろうと、その存在を肯定されることは絶対的に必要なことだ。自分を世に生み出した当人がそれを認めてくれなければ、何のために生まれ生きているのかも分からない。
 そしてそれを、この六道骸が今までに一度も味わったことがないとすれば。
 赤の他人、それも子どもである自分に出来るのは、ただこの思いを、喜びを、祝福を伝えることだけだ。
「おまえが今、ここにいてくれて嬉しい。……生まれてきてくれてありがとう、骸」
 母がくれる、お日様のシーツで包まれるような暖かい言葉にはどうしてもならなかったけれど、綱吉はその言葉に嘘がないことを伝えるために、骸の目を真っ直ぐに覗き込んだ。
 彼を生んだものが彼の生を肯定しないなら、自分たちで精一杯彼の生を祝福しよう。そんなことしか出来ないけれど、せめてそれくらいは、綱吉にも頑張れる。
 大袈裟すぎる綱吉の言葉に、最初集まった面々は呆然としていたが、その中で、クロームが進み出た。
「私からも言わせて下さい。骸様、生まれて来て下さって、私を見つけて下さって、ありがとうございます」
 ……あなたがいる、しあわせ。
 クロームは骸からかけがえのないものをもらった。それは自分と言う、親にすら見捨てられた人間の、存在価値だ。
 これがなくては生きていけない。
 牢獄に囚われた彼が、束の間でも行動出来るようにする傀儡でも構わなかった。
 たとえどのように使われようと、構わないと思う。この命は既に骸のものだ。骸がこの命を利用出来るなら、クロームにとっては他のことはどうでも良いのだ。
 それは、柿本も城島も同じだった。もともと骸が拾った命だ。この人が連れ出してくれなければ、自分たちなどあそこで死んでいてもおかしくはなかった。
 柿本はいつもどおりの無表情で、城島はクロームに後れを取ったことを悔しがるような顔で、クロームの隣に並ぶ。
「ありがとうございます」
 骸は初め、ただ瞠目して、クロームが出てきたあたりでは何だか困ったような顔をして、黙って聞いていた。
 実際骸は困り果てていたのだ。
 どんな顔をすれば良いか分からなくなるなど、骸にとっては希少な経験だ。しかも綱吉によればこの日は骸が感謝される日で、骸がお礼を言うのは違うらしい。それでも「ありがとう」と言う言葉が口から零れそうになって、骸は途方に暮れる。
「あの……」
 弱った様子で言葉を捜す骸に、綱吉は思わず吹き出してしまった。途端、じろりと恨みがましい視線が送られる。
 本当に滅多に見られないものだが、骸は心の底から困ったような顔をしていたかと思ったら、今度は耳まで真っ赤に染めて、綱吉を睨んだのだ。この中で誰よりも過酷な人生を生きてきた骸であったが、不覚にも綱吉は、ちょっと可愛いと思ってしまった。
 だからと言う訳じゃないが、取り敢えず助け舟を出してやる。
「ごめん……あの、取り敢えず乾杯しようか?」
 子どもたちが感動的な会話をしている隙に、奈々はひっそりと飲み物を注いだグラスを、子どもたちの前にスタンバイさせてくれていた。
 甘いもの嫌いな子のために一応お茶も用意してあるが、乾杯のために用意したのはペットボトルの加糖レモンティーだ。奈々は子供会の手伝いなどもするのだが、中高生に飲ませる甘い飲み物では一番これが受けが良い。
 綱吉の厚意を骸は渋々受け入れて、自分の前に置かれたグラスを手に取る。他の者もそれに倣った。
「じゃあオレが音頭を取らせてもらうね。骸、誕生日おめでとう、かんぱーい!!」
 綱吉が掲げたグラスに、獄寺やランボ、イーピンなどが己のグラスをチリンチリンとぶつけていくのを見て、黒曜生たちもそうした。
 乾杯が終わると、我慢して静かにしていたチビたちが大好物のご馳走にめいめいに手を伸ばし、途端にキャッキャと騒がしくなる。
 柿本、城島、クロームに至っては、滅多にお目にかからない大ご馳走に目を輝かせていた。
 テーブルの上には簡単に食べられるクレープや手毬寿司や、普段は子どもたちの大好物ハンバーグになってしまって滅多に食卓に上らないナッツの入ったミートローフなど、奈々の自慢料理が所狭しと置かれている。
「骸、料理取ろうか。何食べたい? てか一通り取っちゃって良い?」
「あ……はい、お願いします」
 骸は初めての誕生日会に戸惑い、綱吉に任せるままにしている。その様が可愛らしくて、綱吉は笑った。思い付きだったけれど、今日、この場を設けて本当に良かった。
 綱吉はニコニコとしながら、大き目のお皿に全ての料理を丁寧に取り分けると、骸の前に置く。
 その顔を、骸はまじまじと見つめた。
 もともと敵同士だったり、再会しても戦いのさなかであったりと忙しない関係の二人が、こうして笑顔を間近で見ることの出来た機会はほとんどない。おどおどと頼りないところの多い少年だったが、こんな顔で笑うのか、と改めて思うと、その得難い機会に不思議な思いがする。
 ……まあ、先ほどから綱吉は、笑ってばかりだったのだが。
 骸の分とは違って多少雑に自分の分の料理も皿に取り分けた綱吉が、骸の視線に気付いて面食らったような顔をする。
「……なに?」
「いいえ、別に」
 あからさまに視線を逸らすと、綱吉はいぶかしむような目をしてから、骸の隣に越を下ろした。
 綱吉が隣に座ったので、骸は手持ち無沙汰のような顔で割り箸を手に取り、綱吉が皿に盛ってくれた料理を口に運ぶ。
「今更なんだけど、お寿司平気だった?」
「はい。魚のカルパッチョもありますし、刺身も寿司も食べたこともありますから」
 六道骸にその機会がいつあったのか定かではないが、箸使いは器用で上手い。ころころとした手毬寿司を、苦労もなくつまんで食べる。
 もぐもぐと咀嚼してホッとしたような顔をした理由が何故かちょっとだけ分かった気がして、綱吉はふっと微笑んだ。
「わさび、入ってないよ。チビたちも食べるから、うちの食事は基本そういうの入れないんだ」
「そ、そうですか。僕は別に入っていても平気ですけどね」
「オレは、あんまりたくさんは無理だなぁ。つーんって来る」
 痛いって言うか苦しいって言うか、辛いんだよね、あれ。
 しみじみと綱吉が言うと、骸は珍しく視線を泳がせた。恐らくわさびで痛い目にあった経験があるのだろう。
 それを誤魔化すように、骸はクレープに手を伸ばす。クレープは食べ盛りの子どもたちのために二種類、積み上げるほど用意されていた。綱吉が子供の頃から大好きな黄桃生クリームと、定番のツナサラダ。生地を焼く以外は具を混ぜて包むだけなので、簡単なおやつだ。
 綱吉は最近サルサソースのスナッククレープもお気に入りなのだが、ちょっとでも辛いかも? と思うものを抜かしていたら却下されてしまった。
「……お母さん、料理お上手ですね」
「ホント? 喜ぶよ、ありがとう」
 笑いかけると、くすぐったいような顔で骸も微笑んだ。それが素直に嬉しかった。良かった、と思った。
 ふと周りを見ると、めいめい好きな料理に箸をつけ、和気藹々と誕生日パーティーを楽しんでいるようだった。なんだかんだ言ってランボの世話を焼いている獄寺は、もしかして世話好きの性分なのかもしれない。
 それを視界の隅で確認してから、綱吉はポツリと唇を開く。
「おまえさ、オレのこと、迎えに来てくれたよな」
 まるで当たり前のような顔をして、待ちきれないみたいに、学校まで。
 綱吉の声に、骸は箸を銜えながらこちらを向く。戸惑った顔をしていた。
「ええ、まあ……」
 歯切れの悪い声に、綱吉はやおら真面目な顔をする。これだけは、勝手に理解したつもりになっているんじゃなくて、ちゃんと確認したかった。
「オレのお節介だけどさ。今日のこと……おまえ、嬉しかったの? だから、迎えに来てくれたのか?」

「オレが、おまえの誕生日を祝いたかった経緯とか理由とか、そういうの聞いて、何とも思わないの?」
「何を思う必要があるんです? だって、そんなの最初から分かるじゃないですか」

 綱吉の思惑など、最初から骸には関係なかった。同情とか皮肉とか、そんなものは無縁みたいな顔で笑った。
 その、理由。
 綱吉は仮定する。骸がこの誕生日会を、純粋に楽しみにしていてくれたとしたら。
 骸がこの日を、嬉しいと思っていてくれたら。
 綱吉が骸を楽しませたいなんて思っていることを、理解した上で来てくれたとしたら。
 骸は不意に優しい顔になって、綱吉を見た。そして小さな声で、言の葉を紡ぐ。
「僕はね、誕生日なんて、特別な日だと思ったことがないんですよ。生まれて良かったと思うことなんてほとんどなかったですし、千種や犬が祝ってくれても、結局その思いはいつも僕の心の奥底にあった。でも、今日は、ちょっとだけ」
 ホントにちょっとだけですよ。
 骸は人差し指を立てて釘を刺してから、はにかんだように笑った。
「誕生日と言うものが、特別な日に思えました」
 自分が生まれた日を、骸は今まで、どうしても喜べはしなかった。それどころか忌まわしい日だ。けれど、沢田綱吉が誕生日会に招いてくれた、と、クロームが頬を喜びに染めて話してくれた時、骸は確かに嬉しかったのだ。
 そう、嬉しかった。誰かが自分の生まれた日を祝福してくれる。生きていることを全て肯定してくれる日。それは夢のように、幸せなことだ。
 この日が待ち遠しくて、沢田家に辿り着いてみれば綱吉はいなくて、思わず迎えに出て来てしまうくらい心が沸き立った。こんなことは、骸にとっては初めての経験だ。
「君が僕を可哀相に思ってしてくれたことだって、良いんです。だって、確かにあんな薄暗い場所で誕生日を祝われる僕はちょっと可哀相ですから! ……だから、今日はありがとう、綱吉くん」
 綱吉は、思わず涙腺が緩んでしまった。色んなものを憎むことでしか生きられなかった骸が、自分の誕生日をわずかでも楽しめるようになれば良いと思って、やったことだったから。
「……、そっか。それなら、良かった」
 やっとそれだけ言葉を発する。骸のことで、こんなに満たされたような気持ちになったのは初めてだ。ただただ、綱吉は嬉しかった。今この瞬間にも、骸が幸せであれば良いと願った。
 綱吉にとって、骸というのはまったく掴めない少年だ。勿論、憎悪や嫌悪と言った負の感情は、笑顔を浮かべていても容易に読み取れる。彼の過去を思えば理解は及ぶ。けれど、彼の凄絶な過去は、平穏に生きてきた沢田綱吉には縁がないものだったのだ。
 だからこそ、分かり合うことは出来ない、と思っていた。綱吉が勝手に彼を慮っても、実際きっと相互理解などは出来ない。でも、例えば誕生日パーティが嬉しいとか、綱吉の手が届くような範囲で、共有出来るものもきっとある。
 そのことが、今日、分かった。それが嬉しかった。
「おまえが喜んで、楽しんでくれたら、オレはそれが一番良いんだ」
 目を見て言うと、骸は少しだけ頬を染める。
 この少年と出会うまでは考えられなかったことだが、骸は暖かいものが嫌いではない。優しいものが好きだ。愛されることは、少し怖いけれど、それでも欲しいと思う。
 これまで畏怖されることはあっても愛されることなどなかったから、骸は愛を知らない。知らないけれど、どういうものかは漠然と知っていて、こんなに世の中にたくさんあるのだから、どこかに一つくらい、自分のための愛が転がっていないだろうか、と思っていたのだ。
 けれど残念ながら、骸は愛されるに足る行動を、今までしてこなかった。
 沢田綱吉と出会って、彼の守護者になって、初めて、骸は、愛は与え合うものだと気付いた。
 マフィアを憎んで滅ぼそうとした自分が……あろうことか、そのマフィアの次期ボスに優しくされて、絆されてしまうなどとは、まさか思いもしなかった。
 こういう世間一般にありふれた感情を自らに感じるたびに、骸は、自分は案外、「ふつう」なのかもしれないな、と思う。
 けれどそれは決して不快なものではない。誇り高い彼にとって本来なら許しがたいはずのそれは、しかし何故か、じんわりと嬉しいものでもあった。
「正直甘すぎですけど……君がそれで良いなら、僕に否やはありませんよ」
 骸はテレているのか、頬を紅潮させていた。
 ……残念ながら綱吉は「否やはない」と言う言葉自体普段使用しないもので意味が分からなかったのだが、骸が満更でもないと言うことは、顔を見れば分かる。
「何度も言ってるよ、オレはこれが良いんだ」
 笑ってやると、骸もちょっとだけ口の端を持ち上げて笑った。彼にしては控えめな笑顔だが、それがまた、心からのものだと思えて、綱吉の心は簡単に浮かれる。
 骸の笑顔を見て綱吉は、骸が端から見ていても頭に風船でもついているのかと思うくらいにふわふわとしていた。
 自分が綱吉をそうしたのだ、と思って、骸は何故かちょっとだけ面映い気持ちだった。

 そこへ、ピンポーン、と澄んだドアチャイムの音が響く。すぐに奈々が玄関へ向かう。パタパタと軽やかなスリッパの音が聞こえた。お客が来ている時に、インタフォンにも出ないで直接「はーい、どなたかしら」と独り言を言うのは止めて欲しい、と綱吉は首を竦める。
 しかしそのすぐあと、がちゃりと音がしてから、奈々が「あらっ、山本くん!」と弾む声で親友の名前を呼んだのが聞こえて、反射的に腰を浮かした。そう言えば山本は部活が終わったら来てくれる約束になっていた。
 骸の誕生日を祝うことなど一度も伝えていなかったことを思い出して、わたわたと玄関へ飛び出す。すぐに山本の晴れた夏空のような笑顔が目に入った。
「山本っ、……」
 名前を呼んだあと、綱吉は、言葉を失ってしまった。
 山本は部活が終わってすぐに着替えてきたらしく、制服ではなかった。そして、両手で抱えるように、大きな舟盛りを持っていた。
「……それ、どうしたの?」
 目を丸くしながら尋ねると、山本が「ん?」と首を傾げる。
「だって今日、骸の誕生日なんだろ? 獄寺のメール見て超特急で準備したんだぜー」
 寿司はもうあるって言うから、お祝いならこれっくらいかなってさ!
 屈託なく笑った山本に対し、綱吉が反射的に振り返ると、照れたような顔をした獄寺がそっぽを向いて立っていた。
「獄寺くん……メールしてくれたの?」
「はあ、まあ……」
「お金オレ払うよ」
「そんな、いいっすよ! 十代目はもうちゃんと準備されてるんすから、オレが出します!」
「準備したの母さんじゃん。オレ何もしてないからね?」
「良いんですって! 充分してやってるじゃないスか!」
「あ、獄寺も払わなくて良いぜ? これさ、オレの小遣い前借だから。友達のお祝いに金取るなんてオレが親父に怒られちまうよ」
 つっても小遣いは減らせないから、しばらく皿洗いの手伝いで勘弁してもらったんだけど!
 山本がカラカラと笑う。
 あっさりと骸を友達と言った彼に、獄寺は負けたような気持ちだ。
「オレが払うって言ったじゃねぇか!」
「いーっていーって。おまえに皿洗いさせても割るだけだしなー」
 却って損になっちゃうだろ?
「そういうこと言ってんじゃねーよ!」
 飽くまで皿洗いから話題を転換しない山本に獄寺は吼えたけれど、こう言う時の山本には話が通じない。綱吉はふっと口元を綻ばせた。
 本当に、くすぐったいくらい誇らしい友人たちだ。
「ありがとう、山本。じゃあ、パーティーに混ざってもらって良いかな」
「お安いご用だぜ!」
 大きな舟盛りを持って山本がリビングに入ると、玄関先でやいのやいのやっていたために何事だろうかと様子を窺っていた面々が、一斉にどよめいた。
 城島が若干引きながらくわーっと牙をむき出す。
「なんらそれー!?」
「刺身の舟盛り! オレからの誕生日プレゼント、って言ったらまあちょっとクサいけど、新鮮だからうまいぜー」
 まさか刺身を食べられない人がいるとは思ってもいない笑顔で、山本が笑う。まあ柿本も城島もクロームも、先ほどから問題なく寿司を頬張っているので、全く要らない心配なのだが。
 山本が持ってきてくれた舟盛りは、甘海老や帆立、鯛などクセや臭みが少なく食べやすいものばかりで、生魚に慣れない人にも美味しく食べてもらえるよう、と言う気遣いが見えた。しかも生雲丹などの高級食材も適度に入っている。
 子どもたちは、すぐに手を伸ばして好きな刺身に箸を付け始めた。主役である骸はと言えば、しばらく呆然と山本の隠すところなどない笑顔を見つめてから、嘆息する。
「こんなに来るもの拒まずで良いんですか?」
 一応僕たち敵だったんですけどね……。あとから参加したクロームはともかく、山本などは城島と戦ったはずだ。それなのに、この屈託のなさはなんなのだろう。
 何と言っても誕生日プレゼントだ。全員食べているけれど一応骸のための、骸の誕生日のためのものだ。骸にとっては、生まれて初めての。
 毒気のない顔や、拒絶のない温かい空気に触れていると、これで良いのかボンゴレ! と言いたくなってしまう。どこかで誰かに騙されても文句も言えない無防備さだ。
 警戒心丸出しの獄寺ですら、簡単に絆される。
 うっかり、一応綱吉の守護者として名前を連ねるならば、自分がしっかりしなければ、と思わされてしまった。骸が呆れたように微笑むと、答えて綱吉も肩を竦める。
「誰でもじゃないと思うけど……さっき山本、友達のお祝いって言ってたよ」
「とも……、い、いつからそういうことになったんでしょうかね」
「いつからでも良いんじゃない? 骸が、イヤじゃなければさ」
「イヤなんかじゃ……ありませんけど」
 骸が少し照れたような顔をするので、綱吉もなんだか、その顔を正視することが出来なくなった。今から綱吉は、重大な任務をこなさなくてはならないのに。勢いを付けないと恥ずかしくて堪らなかったので、覚悟を決めた綱吉は、骸の顔を正面から見つめた。
「あ、あのっ、山本に先越されちゃったんだけどプレゼント、オレも用意してるんだ。渡せないと思ってたし、迎えに来ると思ってなかったから、部屋に置いてあるんだけど……えーと、は、恥ずかしいから部屋まで来てくんない?」
 母や親友たちの前で、骸に誕生日プレゼントを渡すと言うのはなんだか無性に恥ずかしい。骸は不可解そうに柳眉を顰めた。
「は、はぁ? ……別に構いませんけど、僕にはそちらの方が余程恥ずかしいですよ……」
 わざわざ二人きりになって何を渡されるんだろうとか、見せたくないようなプレゼントって……とか、もともと骸も綱吉も器用なタイプではないから尚更照れてしまう。
「いやそんな大袈裟なもんじゃないんだけど! ごめんねお金もないしっ!!」
 だから尚更恥ずかしいんだよね、なんかオレみみっちいって言うか中学生なんだからしょうがないじゃんって言うかごめんね!
 綱吉が顔の前でブンブン手を振って、色々捲し立てた。早口過ぎて何を言ったのかはっきり聞こえなかったが、とにかくごめんを2回も言ったことだけは骸にも分かる。
「……綱吉くん、ごめん、は要らないですよ。別に品物に期待してる訳じゃありませんから」
 骸がずばっと言うと、綱吉は傷付いて良いのか安堵して良いのか分からない顔で、骸の瞳を見上げた。泣き笑いのような、面白い表情になっている。
 その眦に僅かに涙の雫が光っていた。
「僕は君に贈り物をもらえるのが嬉しいんです」
 真顔で言う骸に、綱吉の頬がぼばっと朱に染まる。
「そ、それが一番恥ずかしいよ……このド天然があぁぁぁぁぁぁ」
 語尾を伸ばしつつ綱吉が項垂れる。骸にとっては別にそれほど恥ずかしいことではないのだが……。
「恥ずかしいんですか?」
 綱吉の顔をのぞき込もうとしたけれど、ささっと逸らされた。けれど、耳まで赤くなっているのは分かる。腹の底から温かいものが湧き出して、そのくすぐったさに、骸は思わず吹き出してしまった。


 笑われたと思って怒ってしまった綱吉を宥めて、骸は初めて綱吉の部屋に入った。
 室内は中学生男子にしては綺麗で、ものが散らかっている訳でもなく、汗が臭うでもなく、清潔だ。母親の躾と掃除が行き届いているのだろう。
 ダメツナダメツナと自他ともに認められている綱吉だが、骸にしてみれば駄目じゃないところの方が多い。……まあ、学校の成績と授業態度を見ていないからだと言われればそれまでだが、人間の価値は学業だけで決まる訳ではない。
「部屋、綺麗にしてますね」
 素直に告げると、骸へのプレゼントを用意している綱吉が、背中で返事をする。
「そう? オレあんまり友達の部屋行かないから分からないけど、こんなもんじゃない? あ、ベッドに座っといて」
 言われたとおりベッドに腰掛けると、太陽の匂いがした。すぐに綱吉が綺麗にラッピングされた小さな袋を手に戻ってくる。
 そのまま綱吉は、骸の隣に腰を下ろした。ベッドが軋んでたわみ、少しだけ骸が綱吉の方へ傾く。肩と肩が触れ合う。そんなことすら、骸には初めての経験だった。
 骸の胸中など知る由もない綱吉が、全く意識した風もなく手に持っていた袋を差し出す。
「はい、骸。誕生日おめでとう!」
「……ありがとう、綱吉くん」
 受け取ってから遠慮なく開封すると、袋の中から出て来たのは、シルバーのストラップだった。シンプルで骸は好きなデザインだが、綱吉の趣味ではない気がする。
「これ、綱吉くんが選んでくれたんですか?」
「そうだよ? ……何、やっぱり気に入らなかった?」
 綱吉が胡乱な目付きでこちらを見た。そういうつもりではなかったので、首を振る骸。
「僕は好きですよ。ただ、綱吉くんの趣味ってもっとファンシーと言うか、キャラクターものとかじゃないかと思って」
「ふぁんs……いやそれはない。と言うか、だっておまえへのプレゼントでしょ? おまえが喜ぶもの、使ってくれそうなもの、好きそうなものを贈るのが当然じゃん」
 オレの趣味で買ってどうすんだよ。
 さらりと綱吉がのたまって、骸はなんだか、本当に卑怯だと溜息を吐きたくなった。誰かと買いに行ったんじゃないかとか、モヤモヤした気持ちが全部吹き飛ぶ。
「……何だその顔」
「いえ、あの……ありがとうございます……」
「なんなの? なんでそんな顔すんの!?」
 そっと視線を落とした骸は、最大級照れたような、どうしたら良いのか分からないような顔をしたのだ。

 そんな変なこと言っただろうか。
 自分では普通だと思っていたけれど、綱吉の頬も熱くなってしまった。
 中学生男子が二人、顔を赤くしてベッドの上に隣同士で座ってもじもじしているのは、ちょっと異様な図だ。
 その時。

 はにかんだような顔をしていた骸が、はっとしたように目を見開いて、叫んだ。
「綱吉くん!!!」
 名前を呼ばれて、綱吉はすぐに反応出来ない。身体能力が追いつかない。けれど「直感」は告げていた。骸が血相を変える非常事態が、今自分たちを襲おうとしていることを。
 骸は綱吉の名前を呼んだあと、すぐに体を捻って綱吉をベッドの上に押し倒し、のし掛かった。重かったけれど、骸が自分の体を盾にして綱吉を守ろうとしたことが分かったので、文句なんて言えない。
 二人分の重みでベッドに沈み込んだ、と思った時、骸の頭の上をブゥンと言う音が通り過ぎた。
 風すらも切り裂くように唸ったそれは、黒く光る、トンファー。並盛中学の君主、雲雀恭弥そこにはいた。
「ひ、ヒバリさん……!」
 雲雀はまだ制服だった。
 開放されていた窓から侵入した彼は土足で、愛用のトンファーを身構えながら、綱吉を骸を睨みつけている。
「僕に無断で群れるなんて許さないよ」
「学外ですけど!!」
 許可を得たら群れても良いのかと言うとそういう訳じゃないんだろうなぁと思いながら、綱吉は体を骸の前に出して反論した。
 雲雀は答えない。ただその強い意志を示すように、トンファーを構えたままだ。
 すると、綱吉に庇われていた骸が、ゆらりとベッドから立ち上がった。
「……どうやら今日を命日にしたいようですね、雲雀恭弥」
 綱吉はぽかんと口を開ける。骸は怒っていた。
 それはもう、とてもとても、彼にしては珍しく理性も吹き飛ぶほどに、怒っていたのだ。
「あ、あれ、何、なんでそんな臨戦態勢なの!? おいちょっと、骸ストーップ!」
 一触即発の空気に、思わず骸の腕を掴む。と、骸はなぜか涙目でこちらをキッと振り返った。
「どうして止めるんです! 今日と言う今日は許せませんあの鳥頭!!」
「いや止めるでしょ。危ないし、第一どうしてそんなおまえが怒るの」
 土足侵入されたのはオレの部屋だし、群れてるのを怒られてるのもオレだし、おまえ関係ないでしょ?
 綱吉の言葉に骸は一瞬道目してから、その目にうりゅ……と涙が盛り上がった。
「絶対許しませんからぁぁぁ!!」
「……あれっ、もしかしてオレ火に油注いじゃったみたいな?」
 綱吉の腕をふりほどき、骸が三叉槍を構える。骸がその気になったのを見て取り、雲雀の瞳が凶暴に輝いた。
「なに。闘る気なのかい?」
「この六道骸を怒らせたこと、地獄で後悔なさい!」
「おまえら……好い加減にしろおおぉぉぉぉ!!!!」
 せっかくの骸の誕生日に、超死ぬ気になった綱吉の怒声が轟いた。





 骸誕生日おめでとう!!!
 ……去年から書いていた(放置していた)六道骸はぴば小説をようやく書き終わったぜ!!!
 一応骸ツナを書こうと思って書いていたんだけど、毎度のことながら別にカップリングものではないよ!!
 て言うか獄寺のあたりとか、自分何書いてるのかなーとしみじみ思った。うちのボンゴレファミリーはみんな仲良く!!!!!がモットーです!
 ……骸の誕生日をごっきゅんにももっちゃんにもお祝いして欲しかったんだもん……。
 まあ、蛇足だったと認める。
 いや、獄寺のことだけじゃなくて、何か骸とツナと言うよりツナが音頭を取ってみんなで骸を可愛がる話みたいになっちゃった自覚はある。黒曜っ子たちとかね!!
 何か重度の骸好きっぷりを惜しみなく発揮してしまった。うんだって愛してるんだもん。幸せになれないだろうから骸とは結婚はしたくないと言う妹と、私が幸せにしたるから結婚したいと言う私……どっちが痛いかって言ったらそら私の方でしょうとも!!!!!
 骸って同情されるの嫌がりそうだと思うんだけど、可哀相なんだから仕方ないじゃんっていつも思ってる。
 ……あ、痛いですか。痛いですね!


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