綺羅星
「ガイ……本当に、俺なんかに付いて来て良いのか?」
つん、とベルトの端を引っ張る弱々しい主張。
不安そうな声で恐る恐る問われた、幾度繰り返したか知れぬその質問に、ガイは呆れもしないで笑って振り向いた。
「何が」
そんな問いをされること自体が心外だとでも言いたそうな顔で答えられて、ルークは返事に困ったように、最近クセになってしまった意志の弱い表情でまるい靴の先を見つめた。
まるでそこに答えが転がっているとでも言うように。
勿論、そんなところにこの真摯な優しさに対する答えなんて、落ちてはいない。
だから、上目遣いにそっとガイの胸元へ視線を移してから、ルークは小さな声でその答えを返す。
「だって……俺、ルークじゃなかったんだぞ。誰でもなかったんだ。それなのにおまえの家族を奪った人の息子なんだ」
自分が一番辛いなんて、ルークは決して思わない。
寧ろたった7年しか生きていない自分よりも、ずっとずっと苦しい思いをして、生きて来た人がいっぱいいる。
人を殺さなければならなかったファブレ公爵だって、きっとルークには考えもつかないような色々なことを経験して人生を生きて来て、辿って来た苦楽の道の上にああまで強く立っている。
自分なんかに居場所を奪われたアッシュは、過去を羨んでどれだけ苦しい思いで今までを生きてきたのだろう。
ジェイドも、ナタリアも、ティアも、アニスも、イオンも……ヴァンだって。それぞれがそれぞれの苦しいこと悲しいこと、全てを背負って生きている。
そんな中でもガイは、一族を皆殺しにされると言う悲しく重い過去を背負って、そしてそれすら覆い隠して側にいてくれたのだ。
迎えに来てくれた。アラミス湧水洞で見た明るい金の髪を、向けられた暖かい微笑みを、まるでいつも通りの声を、言葉を、忘れることはきっとない。
ルークが気付かなかっただけでいつだってきっと本当は迷っていたはずの微笑みは、それでも思い出の中でキラキラと輝いている。
自分の正体を知る前と何も変わっていない、純粋な優しさや言葉の数々に、どれだけ救われたか。
だからこそ、ルークはこれ以上、ガイに無理を強いたくはなかった。
そのささやかな声に、ガイは体ごとルークの方へ向き直る。
長身をこちらに合わせるように少し屈んで覗き込んでいるのは、いつも通りの柔らかな眼差しだった。
くしゃりと朱色の髪を掻き混ぜる普段通りの優しい手。
何故か泣きたくなった。
ガイは小さい子供に言い聞かせるようにゆっくりと、優しい声で言う。
「そんなのおまえのせいじゃない。それに、俺にとってのおまえは確かにルークだよ」
「?」
首を傾げるルークにガイが軽く声を上げて笑った。
大好きな、こちらまでじんわりと微笑んでしまいたくなる落ち着いた声だった。
「俺に世話かけさせたのはみんなおまえだ。歩き方も、食べ方も、喋り方も、みんな俺が教えた。そうじゃなかったか?」
コーラル城から戻って来たばかりの、真っ白なルーク。
空っぽの瞳が、無垢に、復讐の汚濁にまみれたこの瞳を覗き込んだあの日を、忘れない。
何も憶えていなかった……いや、何も知らなかったレプリカ。
一人で歩くことも出来なくて、戻ってしばらくは側についていなければ転んでしまうような子供だった。
食事のマナーなんて当然何も知らず、声を発すると言えば泣くことしか出来ない。
こちらを見上げる純粋な緑の瞳に、乞われるままに全てガイが教えた。
「う、……それはそうだけど、それは尚更俺が厄介者ってことじゃ」
たった7年前……とは言えルークにとっては幼児と言って良い頃の気まずい思い出話に、思わず頬が赤くなる。
こちとら17歳だと教えられて今までを生きて来たのだから、それなりの分別があり、年齢相応の意識がある。実はおまえはまだ子供なんだとあとから言われても、気恥ずかしい気持ちは消せるものではなかった。
そして確かにガイには、一番迷惑をかけた覚えがうっすらと残っている。
……なんだか、一生頭が上がらないような感じだ。
項垂れるルークの姿にガイは笑って、首を竦めた。
「どこが。俺は、おまえがいなきゃこんな風になってなかったよ」
「どんなふう?」
「心から笑うことを思い出した。今の俺がおまえにとって優しいなら、それはおまえのおかげだ」
どんなに悲しいことがあっても、苦しいことがあっても、同じ分だけ、楽しいことがあって、嬉しいことがあって。
本当は諦めたりする必要なんてなかったはずの、当たり前の日々。
小さなルークが小さな閉鎖された世界で、日溜まりの庭を駆け回って、それを追いかける。雷を怖がって泣いた夜は眠るまで側にいて、悪戯をしたら叱って、昨日出来なかったことが出来たら褒めてやる。
例える言葉があるとすれば、それは確かにしあわせと呼ばれるものだった。
時の流れを感じさせない微温湯の中で、真実なんてお首にも出さずに、いつか忘れてしまうつもりの、笑って過ごす空間。
ルークが与えてくれたものは、数え上げれば切りがなかった。
優しいと言うことがどんなことだったのかを思い出した。
愛すること。憎むこと。己の復讐を奪ってしまった幼子に対して、恨みがましい想いを向けたこともあった。それほど、その存在はガイにとって大きく、また残酷なほどに眩しかったのだ。
計算だったとしたら大したものだと感心するが、ファブレ公爵は一人息子をガイに預けることで、見事に彼の牙を削いでしまった。
そう思っても、ガイの中には柔らかい感情しか浮かばない。それどころかその一点において、ガイは心から彼に感謝していた。
「なんで俺が、こんなに長い間素性も明かさず復讐も果たさず生きて来たと思う」
ガイがファブレ家で過ごした時間は、実質彼の人生の多くを占めている。
決して短いと言える時間などではない。
それだけの時間、何もせずに指をくわえていたこと……復讐を背負って生きるにはあまりにも長過ぎる時間だった。
本当は、復讐など忘れた方が楽だ。そう分かっていた。成した果てに幸せなどない。
けれどせめて報いたいと思うほどの犠牲や家族への愛情や思慕が復讐心を消すことはなく、時間と共に思い出が薄れる程に取り戻せなくなるものの重さを知り、余計に肩にのしかかって。
時に比例して重くなる復讐と言う名の鎖に絡みつかれて雁字搦めの人生を生きるくらいなら、出来る限り早めに決着を付けて残りの人生を真っ当に生きた方が幸福だった。
ガイはいつでも好きな時にファブレ家に見切りを付けることが出来たはずで、そうしてしまった方が幸せになれたはずなのだ。
たとえファブレ家お抱えの白光騎士団と言えど、事の運びさえ間違わなければガイの妨げになることなどあるまい。
それは、剣を交え斬り結んだことのあるルークが良く知っている。
だから寧ろそれはルークこそが聞きたいことでもあった。
何故と問われても分かるはずもない答えを、しかし問われたからにはなんとか答えようと、アクゼリュスの一件ですっかり素直になってしまった彼は懸命に首を傾げる。
とてもじゃないが自分の存在がガイに何か変化を与えられたとはルークには思えなかったし、本当はガイが良い奴だから忘れたフリをしていてくれたんだろうと思ったのだけれど、それは自分の甘えにも思えた。第一、そんなの、ガイが失ったものの大きさを知れば無神経だと思った。
……知っている。この手から守りたいものがすり抜ける呆気無さを知っている。遣る瀬なさを知っている。怒りを知っている。
あまりにも簡単に人間は殺されてしまうし、この手を、血に汚したこともある。それを背負う重さも恐怖も知っている。今は、それを知る以前の自分に、ルークは決して戻れない。
だから分かる。失ったものの比重を比べることは出来はしないが、奪われたガイが背負った苦しみの、重さくらいは理解出来る。
許さなくて良い。購えないものだから。ガイがそれをずっと憎んでいても当然のことだろうと、ルークは思っていた。
「え、っと……機会を見てた、とか?」
「そんな風に見えたか?」
苦し紛れの返答に、ガイは苦笑するような、仕方ないとでも言うような優しげな表情で笑った。
その顔は、とても復讐を誓っていた男の顔とは思えない。
周囲の空気さえも暖かくするような、昔からルークをホッとさせ、同時に息苦しくもさせるその表情。
こういう顔をされると、何をしても勝てないような気持ちになる。
ルークは胸のあたりがくすぐったくなるような思いで、不貞腐れた表情を作った。
「んなこと言ったって……わかんねえよ、俺には」
「俺はな、復讐なんて、忘れてたよ。ずっと暗い道を歩こうと決めていたってのに……おまえと明るい道を生きたいと思っちまったからな」
「ガイ……」
「憶えてないか。おまえが小さい頃、俺が体調崩して寝込んだんだ。あの時ファブレ公爵のご子息は、屋敷で一番高価な桃を食いたいと駄々をこねて……俺のところへ持って来て、飽きたからやる、って言ったよな」
それは遠い昔。まだルークが幼くて、やっと一端の口を叩くようになった頃のこと。
おぼっちゃまは使用人部屋に臆面もなく入って来て、柄にもなく健気に世話役の心配までしてくれ、厨房まで駆けて行ってどうしても桃が食べたいんだと我侭放題言った挙げ句、その桃を持って使用人部屋まで戻り、わざわざガイの目の前でちょっとだけ齧ったかと思うと、もう要らないからガイにやる、なんて宣ったのだ。
あまりのことに絶句するガイに、悪戯をした時のようにニコニコ(ガイにはニヤニヤと形容しても良いかのように見えた)と笑いながら「あーん」なんて言って口を開けさせたのは、他でもない……。
「……!」
「使用人の俺の為に桃を用意してくれたのはおまえだ。過去よりも未来が大切だって当たり前のことを、俺に教えてくれたのは……ルーク、おまえだ」
貴族生まれ貴族育ちの挟持を持つアッシュでは、ガイに与えられるものが根本的に違う。
桃を用意したのはメイドで、桃を購入したのはファブレ家だったが、一介の使用人に過ぎないガイの為に何かをしようとしてくれたのは、体調の悪いガイに何か食べさせてやりたいと思ってくれたのは、他でもない我侭で純粋なルークただ一人だった。
一歩間違えれば無神経なお貴族様の施しに見えてしまう、破天荒で滅茶苦茶でものを知らない、だからこそ不器用な優しさをくれるルークと呼ばれたレプリカだけだった。
余人には分かりにくい、ぶっきらぼうで真っ直ぐな優しさや素直さにいつも心を慰められていた日々。それは、復讐を胸に秘めて生きる男にしてはとても幸福で、眩いような思い出だった。
幼いルークは本当に何も知らなかったから……何も知らなかったからこその無垢な感情を、そのままガイに手渡すことが出来たのだ。
ルークとして生きていた頃のアッシュは家臣に忠誠心を抱かせるに足る立派な主人だったかもしれないが、心に大きな負の感情を抱くガイの心を、未来に向けることはなかった。
だから……このことでヴァンに一番感謝しなければならないのは実は自分かもしれないと、ガイは思っていた。
復讐はずっしりと背中にのしかかる十字架のように重く、裏切ることなど出来なくて、記憶に残る母や姉の微笑みも、叱る時の顔でさえ全て大切で、板挟みになっていた時間。
喜びも希望もなく、何でも皮肉に捉えてそれを糧に生きるしか出来なかった。
怒りを、憎しみを、記憶を、過去を、失くしてしまったらもう生きて行くことも出来ないと思っていたあの頃。取り戻すことは不可能なものを追い掛けるのにがむしゃらで、振り返ってばかりいた。振り返っていなければ忘れてしまうと怯えていた。
ガイには過去しかなかった。一度でも未来を見たらその眩しさに負けてしまうような気がして、いつだってずっと、過去しかないと言い聞かせて来た。そう思わなければ生きていられない道だったのだ。
昔のことばかり見ていては前に進めないなんて、当たり前のことを言われた時でさえ、ガイの心には無知な子供への蔑みがあった。不愉快だった。
過去がなければ生きていられない苦悩も知らず、両親の庇護下でのうのうと生きる子供の傲慢な台詞だと。たった一人で窮屈に閉じ込められているその姿を見ても、心は痛まなかった。
けれど……ある時に、気が付いた。
これからもずっとこの箱庭で生かされ続ける愛玩動物のように脆弱な子供は、過去も持っていなければ、未来も持っていないのだ。外の世界のことなど何も知らず、いつか自分の復讐の刃にかかって、何の罪もないのに海すら見ることもなく死ぬのだ。
それでも、前を見ようとしているのだ。
幼いルークは、過去を否定したのではなかった。彼には過去すらないのだ。いや、過去がないからこそ、未来を見ることしか出来なくて。
暗闇のように何も見えない過去を振り返らず、前に進もうとしている。
一切の過去を失くしたばかりの幼い子供が言った言葉は、ガイに大きな衝撃と希望を与えた。
そう、それからファブレ家に留まった理由など、ただ一つ。
彼の行く末を、未来を、どうしても見たかったから、だ。見張るなんてことじゃなく、ただ純粋に、見守りたいと思ってしまったからだ。側にいたかったからだ。
せめて自分が出来る限りの力で、彼の未来を明るいものにしてやりたかったからだ。
ガイはルークがレプリカだと分かる前から、彼が彼ならそのままを受け入れようと決めていた。今の言動がどうであれ、ルークによって与えられた衝撃と感動は、どれだけ時を経ようと決して色褪せてしまうものではなかったから。
あんまり幻滅させるなと言ったことがあった。本当に彼が仕えるに値するものなのか試しているつもりだった。でも、本当は答えなど、とっくに出ていたのだ。
ルークがルークである限り。たとえレプリカだと永遠に分からなくたって。
「俺……そんなこと、良く考えて言った訳じゃないんだぞ。母上の顔が思い出せなくて、知らない人にしか思えなくて、当り散らしたくなって、本当は泣いた時もあったんだ」
ガイの偽らない真っ直ぐな視線を受け止めきれず、ルークは言いにくそうに俯いた。
生まれたばかりのルークにとって、期待と落胆に彩られたあからさまな視線は、地獄の象徴のようなものだった。
見回しても心当たりのある顔なんてなく、思い出せ、まだ思い出さないのか、知らないのか、分からないのか、とまるで急かされるように、脅迫されるように、周囲から向けられる視線。
何も知らず、何も分からず、両親だと名乗る人の顔すら見覚えはない。子供でも知っているはずのことが分からない。
あんなに聡明だったのに、あんなに立派だったのに、将来の楽しみな子供だったのにと、過去の自分と比べられる度に、叫び出したくなるほど恐ろしかった。
正体の見えない過去。それを常に突き付けられる不安。
既にいない完璧な過去の自分が、のっぺりと笑って遥か高みからこちらを見下ろしているようだった。
衝動的にその幻の胸倉を掴んで「おまえはダレだ」と問い詰めたくて堪らない。
足元なんて何も見えない。歩いて来た道すら何も見えない。
過去なんて消えてなくなれば良い。勝手な期待で落胆されるくらいなら全て消えてしまえば良い。
あの頃、ルークは周りのものが全てなくなれば自分だけこんな苦しい思いをしなくても良いのにとすら思っていた。
食うものに困ったことはない。大切なものを失くしたこともない。それでも自由を奪われ至らない自分をまざまざと見せ付けられ続けることは、この世の地獄だった。いつしか世界を呪うほどに。
今、ルークは恥じ入っている。
ガイの掛け値なしの優しい言葉や瞳や声に、見合う自分ではなかったと思うから、今だってなれていないと思うから、その視線を真っ直ぐ受け止めることは出来なくて。
こんなにみっともなく情けない姿ばかり見せているのにどこをどうしたらそう見えるのか分からないが、いつもいつも、ガイは自分を買い被っていると思う。
居た堪れないような顔で身を縮こまらせているルークに、ガイは溜息を吐いた。
びくりと肩を震わせたルークが瞼を閉じ、余計小さくなる。そのコンプレックスだらけの頭の上に、ガイは敢えて遠慮せずぼすんと乱暴に掌を落としてぐしゃぐしゃに撫でた。
「……知ってたよ、そんなこと。だからこそ、それでも前へ進もうと思えることを俺は素直に感心した。あれはアッシュじゃない。おまえだっただろう?
おまえはレプリカだって言われてなんでもアッシュの代わりみたいに思ってるのかもしれないけど、俺とおまえの時間はレプリカなんかじゃない、本物だ。おまえは一つ勘違いしてるみたいだな。俺は、アッシュと親友になんてならなかったよ。おまえだから親友になった。おまえだから好きで、おまえだから負の感情を捨てても幸せでいたいと願った。それは、そんなに価値のないものか?」
覗き込む優しい瞳に、ルークは息を飲む。
その瞳の色が、あまりにも昔のまま、変わらなかったから。
屋敷を出てから色々あったし、ルークを取り囲む環境は驚くほど目まぐるしく変化した。
それでも、この瞳だけは、決して変わらなかったのだと思い出す。
自分に自信がなくなっても、この瞳だけは疑ってはいけなかったのだ。
ルーク・フォン・ファブレは、たとえレプリカだったとしても、この瞳だけは裏切ってはいけなかった。
何が偽者でも、嘘でも、側にいてくれたガイの優しさも温もりも全て本物だったのだから。
その気持ちを信じることが出来ないで、却って失礼なことをしてしまった。
「っ、ご、ごめん……!」
涙声で顔を上げる。それでもその瞳にもう迷いはなかった。
「俺に自信がなくなったって……おまえが親友になってくれた俺の価値だけは、誰にも否定させちゃいけないんだよな。そこだけは、誰にでも胸を張れる俺の長所なんだから」
ガイに好きになってもらえたこと。
ガイが迎えに来てくれたこと。
ガイが側にいてくれること。
こんなサイテーな自分を見捨てずに、ずっと期待し続けてくれたこと。待っていてくれたこと。
それがルークの価値、そのものだ。
ルークが生まれてからこれまで、ずっとずっと一緒だったガイが、ルークの掌にいつでも手渡してくれるものだった。
まがい物だった自分にそんなことをしてくれた人は誰もいない。ガイしか、いない。
「俺が欲しい言葉は『ごめん』じゃないな」
ガイが笑う。その微笑みを、ずっとずっと大切にしたい。このまま変わらずに。
思い出す。小さな頃、ガイがくれる言葉や微笑みは、何でも手にしながら何一つその手に掴めない小さなルークの宝物だったのだ。他愛無いオモチャのような小さな小箱に、そっとしまっておきたいような。通り過ぎる時間に、いつしか忘れ去っていたけれど。
ああ……それは、いつでもここに在る。
それだけは、どんな時でも変わらない。
無償で与えられる掛け替えのないそれらに、もう二度と恥じることのない自分でいたいと思えるようになったから。
ルークは涙が滲む目を細めて、笑い返した。
「……そうだな。ごめんじゃなくて、ありがとう」
ティアとの超振動で行方を晦ました自分を、わざわざ足を運んで探しに来てくれた。
側にいてくれて、信じてくれて、いつも何でもない、当然みたいな顔で一緒に行くって言ってくれる。
一番欲しい時に一番必要な言葉をくれる。
一番頼りにしたい時に側にいてくれて、それでいて厳しくしてくれる。
この場所でなら生きて行けると言う安心感。
失ってしまったらと思う不安感。
心を閉ざして何も考えずに生きていた昔は、気付かなかったけれど。きっとこれが、好き、と言うことなんだ。
何よりも、どんなに辛いことがあってもこの道を歩き続けて、どんなことでも耐え続けようと言う決意を、胸に灯してくれるあたたかな想い。
たいせつだということ。
今こうしているのだって、きっと……。
ルークは静かに瞼を閉じた。
それでもはっきりと、確かな存在感を、目の前に感じている。
声や、空気。姿形だけではない、大切なもの。例えば目を閉じても自分の前で笑っていてくれると言う信頼。目が見えなくなってもその声さえ側にあれば何も怖くないと言う自信。
ここまでしてもらえる人間はきっと、たとえレプリカであっても、不幸せなんかでは絶対にない。
そうだ。ガイは……俺の、幸せそのものなんだ。
当たり前のことに突然気付いたかのように、ルークはその事実を受け入れた。
今までと同じに、これだけは、何があってもずっと続くのだと。
アクゼリュスで死ぬ為に生かされたレプリカと、ファブレ公爵に復讐する為にいつか彼を害しようと思っていたはずのホドの末裔。
立場は今でも変わっていない。
ルークは人工的に生まれた生命を持たない命だし、ガイがホドの生き残りであることも変わっていない。
それでも、こんなどん底でも変わらないそれだけは、きっと……どれほど時を経ても変わらずに、瞼を閉じる自分の目の前で輝いているように思える。
側にいると和らぐ空気。ルークにとっては郷愁を思わせるイメージ。
何よりも俺は、これを守るために戦おう。
ルークは幼い頃、自我を植え付けられる前に浮かべていた、ガイにとっては懐かしくも苦々しい過去の味のする純粋な微笑みを浮かべた。
「ありがとう、ガイ」
なによりもおれは、これをまもるためにたたかおう。
ちっぽけだけれど大切な、たった一つのこの命さえも懸けて。
……7年もずっと離さず繋いで来たこの手が、近い未来で無惨にも引き裂かれることを、未だ二人は知らない。
取り敢えず一回ガイルク書いてみよう!と勢いに任せて書いた若い作品(大笑)。
……和泉にとって、初めて「よしホモ書くぞ!」(おまえ明け透け過ぎんだよもっとオブラートに包め)と決めて書いたそれでも友情にしか見えないんだけど本人はラブのつもりなんだよなガイルク小説です。
何かもう、あれだ。この程度で普通に恥ずかしい。
だって男泣かせちゃうんだもんな!……いや、瀬戸口も泣かしてた気がする。まあ良いか(大笑)。
ガイルクの醍醐味って言うのは愛憎だと常々思っております。しかも半端な愛憎じゃないところは、理性では愛なのに、根底では憎ってところ。好きだけど嫌いだとか嫌いだけど好きだとかそんな単純な問題じゃない。ルークに対する真っ直ぐで打算のない深い愛情と、そしてそれに相反する暗い想い。
それでもガイは復讐を捨てた。サラッと流しているけれど、それはとても容易に出来ることではないんだろうな、と思います。
だから、ルークはガイを尊敬しているだろうし感謝してるだろうと推察しつつ、きっとガイも、どこかで救われて、こうして変わっているんだろうな、てのがテーマなんですよ。
……上手く言えないなぁ。
要するに、ガイがあれだけ健全な考え方が出来るのは生まれついてのものもあるだろうけれど、もともと復讐を目的にファブレ家に入った彼をあそこまで真っ当な人間にしちゃったのはやはりルークなんだろうと。
そんでそういう風に補い合うガイとルークがホント好きだな、と。
書いててガイ大好きだなぁと思ったのは、多分に声。松本さんのあの全てを包み込んじゃうみたいな老成した声がね、そのままガイなんだ。これに包まれて育ったルークってのがまた凄いんだ。大好きだ。
ラストの不吉なあれは、レムの塔のあたりを意識してます。何にも知らないルークがその命を捨てても世界を守ろうとするのって、意地とか、純粋な正義感も勿論あるだろうけど、やっと歩き始めた自分の小さな世界の中で自分と接してくれた人たち、その最たる者と言えばガイ……がいるからだろうと思うんですよね。
アクゼリュスの償いってだけでここまでは出来ないでしょう。人間だもん、死ぬのが怖くない訳はないんだし。
あらゆることに諦めみたいな気持ちを抱いて生きて来たそれまでのルークと違って、守る為に死ぬなんて言えるルークがどれだけ幸福で、成長出来たか分かるから、ガイもああいう引き止め方しか出来ないんだろうなぁ。
アラミス湧水洞、レムの塔前後はガイルクの宝庫でした。……ああ、そろそろまたプレイ再開したいな!
お手数ですがブラウザバックでお戻り下さい