Confession

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 生まれた時から。
 園崎家の長子としてこの世に生を受けた時から、私の運命は決まっていた。
 たとえ元は母が勘当された身であろうと、園崎の名を冠する限り、役割は決められている。
 私は、園崎魅音。
 いずれ、雛見沢を代表する園崎家を率いて、頭首とならなくてはいけない子供。



 ただ、幼い頃の私がその自覚を持っていたかと言えば、答えは否だ。
 私たちは双生児として生まれた。
 だから、私たちを分けるものなど、この世にはないと思っていた。
 だって――詩音と私はいつでも一緒で、顔も名前もそっくりで、この時は、永遠に続くんだと思っていたから。
 頭首になる自覚もなければ、その覚悟も持っていない子供。
 そう。正直に言えば、寧ろ私はそれをとても面倒くさい事柄だと思っていた。欲しいと思ったこともなかったし、今この時にもない。だからこそ、考えないようにしていたかった。
 ずっと子供のままで、詩音と戯れていたかった。
 ――けれど。
 いつまでも子供のままではいられない。私たちは、どちらかがどちらかにならなければいけない時が必ず来る。
 だから、当然のようにそんな願いもある日唐突に終わりを告げる。
 私たちは、服と髪型を交換して遊ぶのが大好きだった。
 入れ代わってしまうと他人には容易に分からない。双子だったら誰しも考えたことくらいはあるだろう、罪のない遊び。
 幼いながら私たちの演技は完璧で、生まれた時から隣で見飽きるほど見ている癖を知り尽くした相手になりきるのは簡単だった。
 そう――あの日も。
 重ねて言うけれど、私は園崎家の次期頭首の座と言うものに、全く興味がなかった。
 注意も払っていなかった。
 もう少しでもそれに関心を払っていたら、もしかしたら未来は変わっていたのかもしれない。
 けれど、それは後から考えても仕方のないこと。
 とにかく、私はそんなものはどうでも良かったし、何も知らなかったから……魅音があの日、キラキラした悪戯っぽい瞳で「ねえ、いつものあれ、やろうよ!」と言った時も、忍び笑いをして頷いたのだ。



 そして目が覚めた時、私は、既に魅音ではなかった。
 魅音の背には園崎頭首の証である鬼が彫られ、詩音の背にはそれがない。
 それが、私たち姉妹を分ける印となったからだ。
 私は戸惑った。
 戸惑って……けれどやはり事態を重く捉えていなかったから、大人たちに説明したのだ。
 私が魅音で、詩音が、詩音だと言うことを。
 けれど。
 彼等は口を揃えて言った。
『ああ、またいつものお遊びかい? もうそんなことばかりしていては駄目だよ。狼少年の例もあるんだから』
 優しい笑みで、空虚な笑みで。
 まるで――まるで、何かを示唆するように実のない瞳で、言葉を吐く。
 どんなに違うと言っても、能面のような笑みは揺らがなかった。
 私は気分が悪くなった。
 同じ人間なのに言葉が通じ合えないように、何を言っても変わらない、気持ちの悪い瞳。
 ……そう。それは母さえも。
 私は失望した。
 母すら、私と詩音が入れ代わっても、実の娘なのに気付かないのか、と。
 けれどあとになって気付いた。
 あの時、私たちが入れ代わっていたことを母は確かに気付いてくれたのだ。
 一瞬瞠った目と、刹那で消えた「しまった」という焦りの色が、そう言っていた。
 ただ。
 あの人は、善くも悪くもやはり、園崎の人間だったから。
 自分は勘当されながらも娘は園崎頭首を継ぐ為に献上せよという理不尽な矛盾にも頷いてしまうほど園崎の人間だったから。
 いくら双子だろうと、いくら似ていようと、母が気付かないはずがなかった。
 種明かしは終わっている。
 あとは服を着替えれば、終わりだったのに。
『好い加減にしな、詩音』
 ――母は、鬼が彫られたからには気付かないふりを通すことを選んだ。
 もう言葉では何も変わらない。
 鬼という形がある今では、私が魅音だという証なんて、ない。
 それでも、私はそれが大層なことだと思えなかった。
 だって、たった一度の入れ代わりで人生まで、これから一生入れ代わったままになるなんて、誰が想像出来るだろう?
 だから私は。
『……しょうがないね。もどろっか、詩音』
 もう何をしても仕方ない。
 部屋に戻って服を取り替えれば元通りだと、詩音に言った。
 そうして……振り返った私を、詩音が悲し気な表情で見ていた。
 きっと詩音の方が私よりも何倍も重く、園崎頭首の重責を知っていたのだろう。
 あの日詩音が背負ったのは、ただの刺青なんてものだけじゃない。私の背にかかるはずだった、園崎頭首としての強く孤高の道――。
 あの時の表情は、多分。一生忘れることはないだろう。
『もう駄目だよ、魅音。こんなの、消せないもん。これがある限り私が魅音で、魅音は詩音なんだよ』
 今、考えれば。
 仮にも女の子が誰彼ところ構わず人に背中を披露して「ええいこの桜吹雪が―」なんて言う場面、そうそうある訳がない。
 婆っちゃがそんなことをするのも見たことがないし、見たい輩もいないだろう。
 実際今までは一度もなかった。
 あるとしても、それこそそういう時には入れ代わっていれば良いだけの話だったのかもしれない。
 けれどあの時は、言葉の全てを悉く否定され疲れ、母にすら取り合ってもらえなかったことに少なからず傷付いていて、じゃあ、それでも良いか、と思った。
 だって私は、園崎頭首なんてどうでも良かったから。
 今までの自分じゃないというのは凄く不自然で違和感があるけれど、名前を交換して生きていくだけだ。出来ないことはないかもしれない、と思った。
 私と詩音は今までずっと一緒だったんだから、お遊びが一生になるだけ。
 それを逃げ道にして、言い訳にして……詩音に、押し付けて。
 振り返ってみれば笑いたくなるほど、諦めは早かった。
 その時から、私が園崎詩音。
 今も、これからも、ずっと。私が園崎詩音。
 今にして思えば、魅音は人の上にあって自分の価値をはかるタイプだから、園崎頭首は私などよりよほど向いている。
 それをあの子がどう思っているのかは聞いてみたことがないけれど……少なくとも魅音には園崎頭首の名を背負う覚悟と、誇りがあった。
 そして私は、人の上にも下にもないことを好むから、やはり詩音は私がやるべきだったんだろう。
 感傷なんて私にはない。
 だから詩音としての生き方に納得したし、未練も後悔もこの時にはなかった。
 学校は窮屈で、籠の鳥の身を恨みはしたけれど、詩音でいるのが嫌だとは思わない。
 この先もその点で言えば、一度も後悔などしないだろう。
 一人で全てを背負おうとする魅音を見る度に、胸が締め付けられても。


 ただ――初めて好きになった人に、たった一度、「詩音」を良い名前だと言ってもらえたことは、どんなに無頓着な私でも、さすがにもう死んでも良いかなと思うくらい、幸せだったけれど。


ende


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 自分で書いておきながらややこしくて仕方ない。
 えぇと、詩音自身が「私が園崎詩音」と宣言するまでは生まれた時の名前で書いてます。
 そのあとからの呼び方は入れ代わったあとの呼び方。
 読みづらくてすみません(汗)。

 詩音の生き方を小説にしたいなー、と思ったら、何か出来ていました。一時間くらいで書いた(大笑)。
 魅音と詩音の入れ代わりを描いたので茜さん、周囲の人たちが微妙な立場になっちゃったかも?
 でもそうでもしないとこの不自然な状況に説明がつかなかった(笑)。
 だって普通入れ代わっちゃったって言われたら信じはしなくても疑いは持つし、母親が気付かないなんてある訳ないでしょう。そして子供がこんなことを黙っている道理がない。
 更に言えば入れ代わっちゃったと発覚したものを「もう何言っても無駄だから諦めて入れ代わりなさい」なんて単純な打開案が、普通出て来るものではないでしょう。背中の入れ墨なんて、滅多にお目にかける機会もないんだから。
 だからこそ、大人たちにはゴタゴタを忌む気持ちが少なからず存在したと思うし、……結局魅音はどう思ってたんだろう。やっぱり故意に、格差を羨んでいたからそうしたのかな?そうならそう思わせる園崎家のシステムがいけないのだろうと思います。その結果園崎家が上手く行っていることは疑いないですしね。
 目明し編のような疑心暗鬼のスイッチが入らなければ、このことで詩音が魅音を恨んだり憎んだりということはないと私は見ています。
 実際魅音には園崎頭首が板に付いているし、彼女は人の上にある自分がある種のアイデンティティになっているのだと思う(部活とか)。ていうかぶっちゃければこの二人はこの関係が美味しいんで(笑)。
 詩音は多分人の上に立って何かするタイプの子じゃないんだろうなぁと思います。
 ただ、私自身双子なもんだから考えちゃうと……ずーっと入れ代わって生きるって気持ちが悪いと言うか、すっきりしなくて嫌は嫌だと思いますがー。
 そんで私はどうあってもサトシオンなんだね!とゆー締めになった(大笑)。