dearest5








 今まで、目に映る彼女の強さを信じてくれていた人たちはたくさんいた。
 市丸ギンを筆頭に、心の内へと隠した弱さに気付かず、あるいは見ないフリをして、容姿に比例して威風堂々と強い彼女を、信じきっていた人が。
 それは決して心地の悪いものではなかった。
 けれど今、目の前にいる彼女のたった一人直属の上司はその壁をあっさりと壊してしまった。
「松本。俺は……俺の目に見えるおまえを信じてる。だから無理に強いなんて言わなくて良いんだ。ありのままのおまえで良い」
 それは同じことなのに、目に映る松本乱菊を信じると言っているのに、今までとはまったく違う種類の安堵を松本に与える。
 何故だか、肩の荷が下りたように感じた。
 ありのままの、何も飾らない松本乱菊で良いんだという、その言葉が、
「強いとか弱いとか、そんなのはそれを決める側の結論で、俺には関係ない。おまえは、おまえだ。だから頼っても良いんだ、辛い時には。そんな時くらい背中を預けたって、罰は当たらねぇだろう」
 今ここで、傷を負っても自らを強いと言っているその姿を見てさえ、真っ直ぐな眼差しで彼は言う。
 体の傷とは別に心にも負った傷があれば、それを守ったって良いじゃないかと。
「おまえが隠そうとしても俺には分かる。少なくとも隠そうとしてるってことくらいは分かる。だからあんまり無理はすんな。飾ろうとすんな。おまえが誰を意識してそんなことになったんだかしらねぇが……今おまえが叫んでも泣いても、俺は軽蔑したり見損なったりすることはないんだ」
 自分を飾らなければ、生きては来られなかった。
 相手が信じている松本乱菊を作ること。それは彼女の処世術だったから。
 でも……本当の強さって、何?
 何の為に強くあろうとしていたのだろう。
 そこに理由なんてなかった。
 ただ置いていかれることが不安だったから。
 立ち止まったら終わってしまうと思っていたから。
 怖かったから。
 ああ。私の心の中はなんて汚いもので満ちているんだろう。
 けれど。
 松本は自分を見下ろす冬の色をした眼差しを見上げた。
 捨てられなかった多くのものを拾い集めても敵わない、この輝き。それに見合うものでありたいと初めて思った自分の願い。
 分かってくれる人や支えてくれる人の為に、このままで良いなんてことは決してないはずだったのに。
 守り、守られること。それは本当は当たり前のことで、頼って寄りかかって生きるなんてそんな生易しいことではなく、本当の自分を曝け出してもそれを受け入れてもらえると信じているということ。
 私は今まで、自分の中で自分の為だけに生きてしまっていたから、きっと勇気が要ることなのだけれど。
 等身大の私で、生きることを……私は諦めてはいけなかったんだ。


「隊長……あたしやっぱり、痛い、みたいなんですけど」
 支えてもらっても良いですか。私もあなたを支えてあげたいから、私が揺らいでしまう時に、その手で。
 初めての感情に戸惑うような、自分のものとも思えない声が出た。
 それに日番谷は僅かに瞳を見開き……笑う。
「だから無理すんなって言ったんだ。さ、泣け泣け!!」
 今なら誰も見てないぞ!
 くしゃっといつも顰めている眉もそのままの、しかし眩しいほど素直で愛しい、それは松本の希望そのもののような笑顔だった。
「そんな言われ方じゃ泣けません」
 年恰好に似合わぬ拗ねた声に、日番谷は「贅沢な奴だな」と呆れたような顔で、やはり笑った。
 声も表情も決して甘やかす訳ではない。それなのに、どこまでも優しい。そのことが誇らしく、そして何よりも愛しくて仕方ないのだ。
 私の守るもの。私が、自分の命を懸けても守りたいと思うもの。
 自分の為じゃない、けれど誰よりも私の為。
 エゴなんかじゃない、純粋な感情の為。
 私がこの人を、愛していくこと。それがすべて。強いことも弱いことも、すべてこの人を愛するためだけに。
 私が愛し、私を愛する、たったひとつの最愛。



ende



 終わりです。ここまで読んで下さった方、有難うございました!!
 今回書いたのはお互いが意識するきっかけというのか、ある意味馴れ初めのような話です。
 乱菊さんて強いと思うんです。で、強いところが私がこの人を好きな所以なんだけど、そんな身勝手な理想とは別に弱いところだってあったって良いよな、とも思うんです。
 たまに息を抜けるところがないと……そうでなきゃ大変でしょう。
 何度も言いますが乱菊さんが誰の前なら弱いところも見せられるかって言ったらやっぱり日番谷くんの前で良いと思う。
 市丸にはきっとここまで弱い姿は見せられないんじゃないかと思うんですよ。ある意味市丸は私と同じく乱菊さんに理想を抱いているようなタイプに見えるから。
 勿論それはそれで良いと思うんですけど。そうして高めあっていく二人も理想の一つだし、市丸に弱みも見せない乱菊さんは彼の期待に応えようとしているということなんだと思います。ただそれはきっとすごくアンバランスで、無理がある二人なんじゃないかなぁって。
 でも恥ずかしげもなく「そのまんまで良いじゃねぇか」って言えちゃうのが日番谷くんだと思うんです。若いから(笑)。
 そういう、補い合える日乱が好きだな。頼っているとか言う単純な話じゃなく。背中を合わせられる強さと、向かい合って支え合える弱さを、見せ合える相手、というか。

 ところで今回は結構ヘロヘロの乱菊さんを書いてしまってビクビクの本居なんですが、そのせいなのか何なのか、彼女のモノローグの一人称を「あたし」から「私」に意図的に変えていました。
 なんとなく……「あたし」が彼女の武装のひとつだとしたら、こういう時だけは素直に「私」にしてみようかなと。
 これはこれで新鮮でした。ひたむきさが出ていたら良いなと思っています。

 この作品は私の日乱に関する考え方そのものなので、書きあがった達成感とともに終わってしまったなぁという少しの寂しさもあります。
 考え付いた時はこれよりも更にブツ切りで台詞やテーマがちょこちょこ書き列ねてあっただけのもの。
 まだ同じ話にまとめるということも考えないまま書いていたものが、こうして何とかカタチになりました。
 駄作で文章が追いついていないけれど、楽しく書けました。
 本当に、ここまでこんな短文でぶち切れている小説にお付き合い下さった皆様、有難うございました!!!


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