まんなかBirthday
(タイトル直球過ぎ)
七月十六日。
黒崎一護と有沢竜貴は、朝から昇降口でばったりと顔をあわせることになった。
「……よっす」
「……おはよ」
目を丸く見開いていた一護が手を上げると、竜貴もパッと右手を上げる。
そのまま二人、何となくどちらともなく歩を進め、肩を並べて教室までの道連れとなった。
その途中で一護が可笑しそうにちょっと笑う。
「なんっか、偶然だよなぁ?」
「……そう?」
何が、とか、つっこんだことは二人とも言わなかった。
言わなくても分かるだろうし、分からないなら分からないでそれでも良い。
「ほら」
どこか不機嫌そうに黙りがちな竜貴に、一護は鞄をごそごそと探って、小さな包みを一つ、取り出す。
そして至極当然と言う顔で、包みを竜貴の方へと差し出した。
何を訊かなくても、何を前置かなくても、それで通じると思っている、通じないはずがないと思っている態度。
その一部始終を目で追って、竜貴は足を止めてその顔をただ見つめた。
何を意味しているのかは分かっている。けれど、手を伸ばして取ることはしないで。
「……一護。もう良いんだよ? お互い別に友達も出来たんだし、女へのプレゼントなんて大変だろ?」
昔のように、付き合ってはいけないんだし。
男と女で分かれて遊ぶようになって、竜貴の中で、きっともう一護は織姫以上の存在などではないだろう。
いつになく厳しい目の幼馴染みに、しかし一護は手を引っ込めることはなかった。
「そういう言い方、すんなよ。ライン引いてるみてーな。大体俺は妹いんだから、そんな気にすることじゃねぇじゃねーか」
女の持ちモンなんて見慣れてるし、嫌なら俺から止めてるよ。
そう言って、持ち上げもしなかった竜貴の手をとり、包みを押し付ける。
「遠慮するほど大したもんじゃねぇしおまえだって……」
嫌ならおまえから止めて良いんだぞ。と言いかけた一護の言葉の途中で、竜貴はスカートのポケットからやはり小さな包みを取り出し、一護へと投げた。
そのまま走り出し、少し先で振り返って捨て台詞のような言葉を投げつける。
「あんたがそんなだから、あたしだっていつまでも止められないんだよ!」
あたしだって嫌じゃないんだから。
言外に込めた言葉。
気付かなければ良い、と思うけれど、きっと一護は気付いてしまっただろう。
自分の誕生日なんて憶えていなくて良い。
それでも竜貴も、一護も、自らの誕生日は忘れたことがない。
何故か?
……簡単なこと、自分と相手の誕生日が一日を挟んで並んでいるからだ。それが丁度今日……七月十六日だった。
毎年この日は、お互いにプレゼントを交換する日。
これはまだ幼い子供だった頃から、友人との付き合いの兼ね合いで二人の誕生日パーティを纏めてやっていた頃の名残だった。
だから、「ああ、今月はアイツの誕生日があるんだな」と思えば、同時に自らの誕生日も思い出すのは容易い。
一護は昔から女に優しかった。
妹がいるからなのか、女に気を遣うのに無駄な意地を張らないし、お互いに仲の良い友人が性別を分けても、疎遠になるということはなかった。
……けれど最近、竜貴は分からなくなる。
いつまで、こうなんだろう。
いつまでこのままでいられるんだろう。
高校を卒業したら?
大学に進んだら?
社会人になったら?
お互い顔も知らない大切な人が出来たら?
結婚したら?
ねえ、それでも。
それでも……このままこうして、真ん中の日に二人でプレゼントを渡したり出来るの?
今日続いたことが明日も続くなんていう、保証はない。どこにも。
それはいっそ竜貴よりも一護の方が充分すぎるほど良く分かっていることだ。
だからこそ彼はこの習慣を続けることに固執するのかもしれない。
それを、知っていて。
でもね一護、分かってる?
いつかは、あたしたちだってお互い逢えなくなるんだよ。
それを心から悲しむほどに仲の良い友人だった例はない。
だからきっと、全力で阻止するなんてことはない。
けれど僅かでも寂寥感がないと胸を張れるほど薄い付き合いだったわけでもない。
どんなに目を背けてもいつかは、ただの昔の幼馴染みになって、昔のクラスメイトになって、昔の同級生になって、同窓会でもなければ思い出しもしない存在になる。
そしてその日は、きっと、そんなに遠い未来ではないのだ。
寂しいなんて思うのは、きっと凄くおかしなことなのだけれど。
ちょっとだけ顔が見たかったり、憎まれ口を聞きたかったり、そんな些細なことさえ。
――叶わなくなる時が来る。
今まであったものがなくなるのは、それがたとえどんなものだって、悲しいけど。
だから竜貴には分からない。
一時も無駄にせずその日に後悔しない為に一護の顔を忘れないよう過ごせば良いのか、その日の訪れが恐ろしくないよう今から忘れるように過ごせば良いのか。
誕生日プレゼントなんて、形が残って一番厄介なのに。
ふ、と気付いて、プレゼントの包みを開けてみた。
気が利かない包装紙の中に包まれていたのは、どんな顔をしてどこで買ったのだろうかと首を捻りたくなるぐらい細い細工のブレスレット。
よりにもよって身につけるものだとは。しかもそれがブレスレットだとは。
忘れることも出来なくなりそうな予感が、嬉しいのか、悲しいのか。
それすらも分からず、竜貴はブレスレットを掴んだ細かく震える手を、目元に当てた。
「馬鹿、野郎……ッ!」
時を同じくして、一護も竜貴からのプレゼントの中身を確認していた。
無骨で地味な、けれど趣味の良いシルバーのバングル。
女物とはやはり大きく違うけれど、その選択が。
忘れて欲しくないと思っている彼女の本心を、伝えてくるかのようで。
一護はぎこちなく頬を緩ませる。
続くものを信じたいから、だから、どんな時でも。
「バッカヤロ……」
だからどうか、確証なんてない次の誕生日の、次の次の、もっと更に未来でも、その瞳に出会えるよう。
今はただ――願う。
一月遅れの一護×竜貴……って言うか、一護&竜貴?で真ん中バースデー(Byこどちゃ)でした。
この二人の関係が好きです。
……しかし何でこんな悲しげな話になったんだか?
男女の幼馴染みって境界が難しいと思うんですよね。
友人と言う関係よりも絆が深くて浅い分、凄く中途半端な感じがするし。
多分、そういうことを書きたかったんじゃないかなーと。
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