| *flower of night* 「ぷっは〜!!」 この一杯の為に生きてる! とでも言い出しそうな表情で、松本は手に持った瓶を呷った。 時は日も落ちてしばらく経った頃、所は共同浴場の入り口。 彼女が手に持っている透明な瓶に書かれている文字は……「珈琲牛乳」。 「乱菊さんのことだから、ビールかなーとか思っちゃいますよね」 通りかかる者たちが意外そうな顔をするのを横目で見遣り、その隣でこちらは苺牛乳の瓶を可愛らしく傾けている雛森が苦笑した。 勿論それが偏見でこの女性が実はちょっとお茶目で可愛らしいことなんて、幼馴染みを通して知る機会に恵まれた雛森は既に百も承知だったが、確かに彼女の外見からすれば珈琲牛乳なんて意外だということは想像に難くない。 それに、洗いたての髪を流した伊勢がくすくすと笑って答えた。 「印象が強烈なんですよ」 松本は一目見たらこういう人間なんだ、と思い込んでしまうような容姿と肢体を持っている。そういったものに惑わされるのは、仕方の無いことだ。 「ホントは結構甘いもの好きなのよね」 仕事時間外だからか砕けたような口調で振り返る伊勢に、松本は笑った。 「あたし辛党だけど甘党だから」 お風呂上りはやっぱり牛乳が良いのよ!と言い張る彼女に雛森が付き合うようになって随分と経つが、いまだに違和感は拭い去れないと思う。 一緒に浴室まで行くと更に深く思うのだが……女として羨ましいと思わざるを得ない身体と、小麦色の美しい髪、整った顔立ち……どれをとっても、とてもじゃないが風呂上りに腰に手を当てて牛乳を飲むようには見えない。 現に今も、洗い髪をしっとりとまとめ、いつもは死覇装の前を大きく開けているのとは逆にきっちりと着付けた浴衣も印象がたおやかで柔らかくなっている。 ……これではビールすら呷って飲むようには見えない。 その外見と中身のギャップが魅力的な女性である所以と言うこともあるのだが。 男湯の戸をがらりと音を立てて開け、日番谷は外へと一歩踏み出した。 心地良いけれどじっとりと湿った熱気から開放され、ひんやりとした空気に包まれる。 そこには既に彼の連れが待っていた。 「隊長、遅いじゃないですか」 いつも後ろへ無造作に流している長い髪をゆったりと緩く首の横あたりで結わいている……松本乱菊がこちらへ微笑む。 暗い夜目にも、それは華やかに見えた。 「悪いな、按摩器が混んでて……」 あのオヤジ軍団が、と毒づきながらフルーツ牛乳を片手に歩み寄ると、ひょっこりと雛森が顔を出して忍び笑いを洩らす。 「日番谷くん按摩器なんて使ってるの? 年寄りくさいなぁ」 からかうような声音に、日番谷は眉を顰めた。 そのオヤジ予備軍の中に藍染が入っていたなどと言ったらどうするつもりなのだろう。しかも藍染は日番谷よりも先に使っていたくせに未だに出てこない。……あんまり気持ち良くて寝てんじゃねぇかあのオヤジ。 大体、そういう自分はガキくせぇくせに、と思うけれど、そう返したら最後猛然と身体的コンプレックスを攻撃し合う攻防戦になってしまうのでここは黙っておく。 ……俺って大人だよな。 とこっそりと悦に入ってほくそえむことは忘れずに。 まあ、それだけでも一応癪に障るので、これ見よがしに舌を出すことだけはしたのだが。 そんな二人に松本が声を上げて笑った。 「ホント、仲良いですねぇ」 微笑ましげな視線がなんだか居た堪れなくて、日番谷はフルーツ牛乳の瓶をぐいっと傾ける。 乾いた喉にちょうど良く冷えた飲料は心地良く、一気に飲んでしまった。 はーっ、と一息吐くと、松本が清潔なタオルを差し出す。 それを受け取って、日番谷は首にかけた。 濡れた洗い髪をそれで適当にわしわしと拭うけれど、大量の水気を含んだ髪はそんなものでは手に負えず、滴り浸透した水が浴衣の肩にうっすらと滲んで染みを作る。 そんなんじゃ駄目ですよ、と松本が自らの手拭いで丁寧に頭を拭いてくれたが、何となく、それが身長差のなせる業なのだと知っているから、面白くはない。 言外でそう告げる上司に松本は常と同じく気にもしない様子で「風邪を引いたら面白くないでしょ?」と笑った。 優しい手付きがコンプレックスも拭いとるようで、そういう所がこの女はいけないのだ、と思う。 その手の柔らかさが告げてくる体温と、そしてまた別の心の温度が、そんなことなど物ともしないほどの想いを伝えてくるから。 そう思ってしまったら、どこか余裕を感じさせる微笑すら許してしまうから。 計算ずくなんじゃないだろうな、と疑いの眼を向けても、揺らぎもしない眼差しが。 ……あー、負けてる。 溜息を吐きつつ所在なげに視線を泳がせれば松本自身は珈琲牛乳の瓶を既に空にしていた。 日番谷は松本の手の中で手持ち無沙汰に弄られている瓶を手にとり、くずかごに捨てて彼女を見上げた。 「帰るか」 松本は「はい」と快く返事をして、伊勢と雛森に手を振る。 ひらひらと振られた夜闇になびく掌を名残に、定位置に納まって日番谷の後ろを歩いて行った。 その後姿を、見送って。 「何か……あの二人見てるといつもやられた、って思うんですよね」 雛森が小首を傾げて可愛らしい溜息を一つ吐き出した。 それに、伊勢は苦笑で応える。 「熟年夫婦だものね」 知らない者などは親子とも姉弟ともどうとでも言うけれど。 あの仲睦まじさ、甲斐甲斐しさを一目でも目にすれば、そんなことはとてもじゃないが口に出来ないに違いない、と伊勢などは思う。 「意識なんてしてもいないのに、何であんな自然体でいられるんだろう」 あたしなんて藍染隊長の前に行ったら頑張って頑張って硬くなっちゃうんですよ? 本末転倒じゃないですか。 頬を膨らませるその姿に、伊勢は堪えきれなくなったように声を洩らしてくすくすと笑った。 「あなたと藍染隊長も、それはそれでやられた、って思わずにはいられないと思うわよ?」 肩を竦めて上品に微笑み、丁度その時男湯の暖簾をくぐって出て来た京楽の元へと歩いていく。その背中を、雛森はぽかんと口を開けて見送った。 ……えーと。 これはこれで、やられた、ってことなんじゃないのかなぁ。 美しく清潔だからこそどこか婉然とした、余裕のあるその微笑みと、合わせて狙ったかのようなタイミング。 寧ろ立派すぎるほどやられたー!って感じだ。 戸惑う肩に手を置かれて振り返れば、噂の藍染が立っていた。 「お待たせ雛森くん。さ、帰ろうか」 いつもと同じ、穏やかな微笑みに、雛森は自然笑みを浮かべる。 「はいっ」 手拭いを手渡すと「有難う」と笑ってくれる人。 たったそれだけのことが泣けてくるほど嬉しくて、頬を紅潮させながら隣に並ぶ。 身体が硬くなると先ほどこぼしたが、それは決して不快なものなんかじゃない。雛森にとっては、寧ろ心地よくさえあった。 ああ、やられたってつまり、こういうこと? 通じ合っている日番谷、松本の二人と、落ち着いた雰囲気の京楽、伊勢の二人。 二組に比べてまだまだどうこうなる段階なんかじゃないのだけれど。 そうだな、少しでも良いから。やられた、って、思える後姿だったら、良いなv ……雛森は知らない。 鼻歌の幻聴が聴こえそうなほど弾むように藍染の隣を歩いていく自らの後姿を、膝を付きそうなほどがっくりと項垂れ「やられたー……!!!」と思って見送った吉良がいたことを(笑)。 ■あとがき■ 日乱じゃないじゃん!!(滝汗) 寧ろ締めが藍雛←吉良じゃん!!(大笑) って感じですが一応日乱なんですと主張してみるテーマ小説、「お風呂」。 一番隊のEDを見た後すぐに書き始めて丁度良くテーマで風呂関係が出たのでやっちゃいました。 私は無意識で周囲に惚気てしまう日乱が大好きです。 で、雛森と七緒ちゃんにそう思ってもらおうと思ったんですが、上手く書けず……にいたら締めが藍雛←吉良に(汗)。 皆惚気すぎよ(笑)!!どうぞご寛恕下さい。 お風呂ネタって言っても入浴していませんが、自然に浴場前で待ち合わせて帰るのって良いですよね?え、良くない??(滝汗) ……いや、あのED映像、共同浴場ありってことで良いのかな、って思って。 妄想は無限大ですよ。 無限大な妄想(ゆめ)と言ってしまうと「Butter-Fly(デジモンアドベンチャーOP)」を冒涜しているような感じですが(笑)。 ブラウザバックでお戻り下さい。 |