dearest4








「松本。俺は……」


「たいした傷じゃありません。大丈夫です。あたし、強いもの」
 虚との戦いで負傷し、しかしきっちりと一矢報い止めを刺して帰還した彼の部下は、事も無げにこう言った。
 まず最初にそういう問題じゃないだろう、と思う。
 強いとか、弱いとかは関係ない。
 現に今負傷して目の前にいるから、それを案じている心に強さは関係がない。
 ずっと感じていた。
 この女……松本乱菊は、何て危ういバランスで生きている女なのだろうと。
 性格は適度に軽くて適度に真面目で、上の者を信頼する真っ直ぐな目を持っている、こちらからも信頼するに足る良い副長で。
 だからこそこのままではいけないと。厳しいことを、言おうと思った。
 けれど、口から出たのは存外優しい声だった。
「松本。俺は……俺の目に見えるおまえを信じてる。だから無理に強いなんて言わなくて良いんだ。ありのままのおまえで良い」
 松本のことを、初めて会った時から、弱いなんて一度も思ったことはない。強い女だ。弱みを見せない女だ。
 初めてだった。隣でも、背中でも前でも、全面的に信頼して預けられると思った女は。
 最初はそれが僅かに癪で、けれどいつしか比ではないほど心のどこかで、頼ってしまっている自分が居た。そんな彼女が誇りでもあった。
 けれど弱いところもある女で、それを隠すことに長けてしまっている女だった。
 そして他の誰にも守れないこの女の深いところを、守ってやりたいと思うのは傲慢だろうか?
 俺を守ってくれようとする強い力を感じるから、俺もそれを守りたいと思うのは、そんなに悪いことなんかじゃないんじゃないか?
「強いとか弱いとか、そんなのはそれを決める側の結論で、俺には関係ない。おまえは、おまえだ。だから頼っても良いんだ、辛い時には。そんな時くらい背中を預けたって、罰は当たらねぇだろう」
 どんなことがあっても辛い顔は見せない。そういうところが好きだった。
 女性でありながら……いや、女性だからこそなのか、痛い傷も何でもないような顔をして我慢できてしまう姿勢に何よりも惹かれた。
 それは尊敬にすら似た想い。女性に対して抱くのは初めての感情。
 けれど、女だと意識したらその傷を庇うことがあっても良いんじゃないかと思うようになってしまった。
 ずっと見ているから、どれほど上手く隠しても痛いということは分かるから、他の誰かが触れないそんな傷を、守らせてくれないか。
「おまえが隠そうとしても俺には分かる。少なくとも隠そうとしてるってことくらいは分かる。だからあんまり無理はすんな。飾ろうとすんな。おまえが誰を意識してそんなことになったんだかしらねぇが……今おまえが叫んでも泣いても、俺は軽蔑したり見損なったりすることはないんだ」
 例えば、これほど強い女が人知れず誰にも見られない場所で泣いているとしたら、それは堪らなく悔しいし、悲しい。
 今まで日番谷にとってそういう部分を見せることの出来る相手が雛森や他の誰かであったように、松本にもそういう相手が居たって良い。
 外へ見せている強さとは別の、内へ籠もっていく小さな弱さの欠片があるなら、日番谷はそれを見過ごしたくはなかった。
 この手に包み込めるほどのものなら、そうする。それで足りないなら、抱きしめてやる。
 そうするほどの価値が、彼にとっての松本乱菊にはあったから。




続く。


 ッ続きます−(汗)!! と言う訳で日番谷くん視点バージョンな訳ですが。
 日番谷くんにこう言って欲しくて書いた話ですので、ここが書けてやっと一息つける感じです。
 切る所にもよりますが、あともう一話で終わる予定です。
 ここまでお付き合い下さった方、有難うございました(気が早い)!!

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